第41話 黒いもの

会場が騒いでるのが聞こえてる。


「やっぱりアザムさんの勝利か」

「そりゃそうだよな」


「だけど、ステュティラちゃんも頑張ったんじゃないか。

 13歳の女の子が準優勝なんだぜ」

「それもそうだ。

 あの娘すげぇよ」


アザム団長がアタシの方に近づいてくるんだ。


「すまない、すまないすまないすまない!

 ステュティラちゃん、背中はどうなってる?

 後頭部を打ったりしてないだろうな。

 まさか鉄棒の方に飛んで行ってしまうなんて。

 娘さんに傷つけてしまったら、ターヒルにどう謝ればいいんだ」


アタフタしてる。

さっきまでの猛獣の顔じゃ無い。

もう温和なぬいぐるみのクマさんね。


アザ熊がアタシの方に手を差し伸べるので、その手を取って立ち上がる。


「うん。

 団長の拳を受けた腕は痛いけど。

 他は大したコト無いみたい」


アタシは軽く立ち上がった。


あらアタシの後ろにナニかいるみたい。


「ふみゃ、ふぎゃぁ、みゃみゃみゃみゃ」


「ええっ、男爵?!」


アタシが立ち上がると、その下に居たのは。

なんと真っ黒で小柄な猫、エステルの家の男爵だった。


「男爵、どっから紛れ込んだのよ」

「みゃー-、みゃん」


男爵はテヘッみたいな顔をして、サササッと走り去ってしまった。


「ホントーのホントーにステュティラちゃん平気なのか。

 あの速度で鉄の棒にぶつかったら、タダじゃ済まないハズだぞ。

 背骨が折れていてもおかしくない。

 やはりスィーナー先生に診てもらった方が」


団長は心配するけど、ホントーにアタシはなんとも無い。

鉄棒に当たる寸前、ナニかがふんわりとアタシの身体を受け止めた。

そんな気がしていて。


スィーナーと呼ばれた女医さんはアタシの近くに寄ってくる。

蛇の巻き付いた形の変な杖でポンポンと背中を叩く。


「なんとも無いですよー。

 運が良かったんですねー。

 でも腕の方は完全に打撲ですねー」

「イタイッ!」


更にアタシの腕も杖でポンポンしやがるんだ。

バカー!

この腕はさっきアザムのパンチをモロに受けたの!

まだメッチャ痛いのー。

触んじゃねー。

と、思ったのに。

あれ、なんだこれ。

アタシの腕がすでにもう全く痛くない?!


「はーい。

 治しちゃったですよー」


スィーナー先生がとぼけたフンイキで笑うんだ。

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