第39話 パワー

「行くぞ!」


アザぼんは気合の掛け声。

だから。

それがダメなの。

そんなのしたら相手に警戒されるでしょう。


つまりアタシのこと。

アタシはアザぼんが今から攻撃してくるのが分かっちゃう。

だからアタシはアザぼんの腕の先を眺めて逃げればいい。

後はテトラと一緒。

体勢をくずしたアザぼんを攻撃すればいいんだ。

テトラのマネをするのはイヤだけど。

それが基本的な戦い方なんだからしゃーない。


なのに。

そう思ってたハズなのに。

アタシの身体は動かない。


アザぼんが声を発すると同時に。

ナニかがアタシの身体に叩きつけられた。

「行くぞ」の「い」と「く」の間くらい。


ふだんクマのぬいぐるみみたいな風貌のアザム団長。

やわらかな空気感を発してる。

それが野獣の熊の目つきになっていて。

その視線がアタシを刺し貫いた。


「く」と「ぞ」の間にアタシはそんな事を考えていて。

逃げる!

頭はそう思うのに、足は動かない。


アザムが腕を振りかぶって。

その腕は肩より後ろに下がっていて。

正に誰にでもバレバレな大振りのストレートパンチ。

肩と腰と全身の力が乗ってるけど破壊力バツグンの拳。

それでも、そんなの喰らうヤツはこの世にいない。


なのに。

それなのに。

アタシはその拳が肩からまっすぐにアタシの身体めがけて飛んでくるのを黙って見ていた。

すぐにアタシは走って逃げるべき。

なのに、アタシの足は凍り付いたように動かない。

一ミリも地面を離れない。


視界の片隅で、誰かが叫んで。

「ステュティラちゃん、逃げて」と言っていて。

この声はエステル。

アタシの親友だとアタシの頭のスミで誰かが気が付いて。

その脇から黒い小さなカタマリのようなモノがパッと消えたような気さする。


そして大きいなにかトンでもないモノがアタシに近づいてきていて。

アタシの足は凍り付いたままだけど。

腕だけは反射的に自分の頭を守るように動いて。


アタシってばガードしてる。


と他人事のように考える誰かがいて。

それを考えてるのもモチロンアタシで。


そしてアタシの腕に凄まじい衝撃が当たって

なにが起きてるのか良く分からなくって。


モチロン頭の片隅で分かってはいる。

アザムの拳がアタシに当たった。

でもこの力は!

そんなモンじゃない。

一人の人間の拳のパワーとは思えない。

それこそクマとか獅子、牛みたいなデッカイ猛獣が体当たりして来た。

そんなトンでもない破壊力。

そのパワーそのものがアタシの腕にブチ当たったんだ。

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