第38話 一発

アザぼんはアタシに言った。


「いいかい、ステュティラちゃん。

 一発だ。

 俺はキミに対して本気の拳を一発振るう。

 それで、キミが立っていられたらキミの勝ちだ。

 俺はもうそれ以上戦う体力が残っていない。

 だから。

 その一撃に全力を込める」


「いいわよ」


アタシがアッサリ応えたのを見て笑う。


「ははっ。

 ステュティラは話が早くていい」


アッタリマエじゃない。

メンドくさいのは嫌い。

それがアタシ、最強美少女剣士ステュティラちゃんなのだ。


「……だってステュティラちゃん。

 アザムさんのパンチって凄いんだよ。

 体格の良い男の人を一発で吹っ飛ばしちゃうんだよ」


エステルは心配顔。

確かに第一試合でアザ熊は一撃で対戦相手をブッとばして、戦意を奪ってしまったんだ。

だけどさ。


「ダーイジョウブ!

 喰らわなきゃいいのよ」


前にも言ったけど、アザぼんの拳はテレフォンパンチ。

来るのが簡単に察知出来て、避けやすいパンチ。

どんなに破壊力があろうと、当たらないパンチなんて怖くない。



「ん-、仕方ないね。

 アザムさん、変なトコロで剛情なんだからなー。

 これ以上言ってもムダみたい」


エラちーが頭を左右に振りながら諦めた。


「はい、じゃあお待たせしてしまったけれど。

 ついに決勝戦です。

 選手はアザム団長とステュティラちゃん。

 では、試合開始!」


そして。

アタシは試合場の隅からアザ熊に向き合う。


アザムは、団長はもう試合場のド真ん中に立っていて。

アタシを待ってる。

右手を握りしめて、力を込めてるのが誰にでも分かる。


だから、アザぼん!

そーゆーのしてると戦う相手に分かっちゃうの。

警戒するでしょ。

アタシは絶対あのパンチは喰らわない。


これで相手がテトラだったりパルミュス先輩だったりしたら。

あのパンチするポーズはフェイントかも、って気になる。

拳の方に注意を向けさせといて、裏をかいて足で蹴る。

ヒキョーっぽい技でアタシはあまり好きじゃないんだけど。

そーゆーのだって練習をしたうえで身に着く技術。

その辺のシロウトがフェイントかまそうったってデキはしない。


ナッシー相手に使ったアタシの必殺技だってそう。

ワンツーパンチで拳に注意を向けておいて、イッキナリの大技。

相手にとっては上から足が降って来る。

アレだってメッチャ練習してるから出来るんだ。


アタシはアザ熊からアザぼんに呼び名を変えている。

熊って言っちゃうと強そう。

ぼんは坊ちゃんのぼん。

爺ちゃんに坊ちゃまなんて呼ばれてた男に負っけるモンかー。

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