第37話 治療は

「じゃあ、そーゆー事で。

 アザム団長、治療を受けてください。

 スィーナー先生お願いします」


「はーい、おまかせですよー」


とぼけた声で女医さんがやってくる。

相変わらず、ヘビの巻き付いた細工の変な杖も見せびらかすように持ってるんだ。


「エラティー、それはダメだ。

 スィーナー先生、悪いが試合が終わってからにしてくれ」


そんなセリフを言ったのは。

傷だらけのアザ熊だった。


「でも、アザムさん。

 その身体じゃぁ……」


「あのな、エラティー。

 心配してくれるのは嬉しいが。

 勝ち抜き戦てのはそーゆーものだろ。

 それまでに当たった相手との戦いのダメージを抑えるのだって技量の一つだ。

 モチロン運だってあるだろうが、運だって実力の一つなんだ。

 見ろ、ステュティラを。

 これまでに3試合を熟してきたってのに、ほとんどケガも無い。

 それが彼女の実力だ。

 俺の方はケガだらけだが、それが俺の力が足りなかった、ってコトなんだ」


片眼はハレ上がってるし、唇だって切れてる。

頬にはアザが出来ていて、額には血がにじんでいたりもする。

身体はもっとヒドイ。

いたるところアザだらけ。

赤くなっている箇所も有れば、青くなってる所もある。

これが満身創痍ってヤツなのね。


だけど、しっかりした声でアザム団長は言い切った。


「俺の回復はけっこうだ」



エステルはアタフタしてる。


「ええっ?!

 団長、大丈夫なの。

 ちゃんと回復してもらった方が……

 でもそうしたら、ステュティラちゃんが不利になっちゃうし……

 どうなの? ステュティラちゃん」


「……か」


「『か』ってなに? ステュティラちゃん」


「かぁあああぁぁぁぁっこええええええぇぇぇぇ!」


チックショウ。

アタシもカッコイイとこ持って行ったつもりだったけど。

その遥か上を行かれたキブン。


「アザム団長! 男だぜ」

「アザムさん! 一生着いて行きます」


「アザム団長! 惚れるぜ」

「アザムーーーッ それでこそ俺らの団長」


拍手が打ち鳴らされ、喝采が上がるんだ。

護衛団の人間はモチロン、ウチの道場の人間も。

男連中はみんな、アザムコール。


「ホントに大丈夫なの」

「ケガしてるんだし、無理しない方が……」


なんて声を上げる女の人もいるんだけど、この勢いには勝てないよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る