第35話 決勝前

「すごい、すごい。

 ステキすぎるノネ。

 ステュティラちゃん、決勝進出するナンテ。

 アナタの人気もウナギ登り!

 おかげで賭けに参加する人数も倍増」


ファオランはアタシに飛びついてきた。

さっきの試合でのテトラとのやり取りはもう無かったコトにしたらしい。

ひとっつも覚えて無いってフンイキ。


「でも。

 …………ここで……悲しいコトに、ステュティラちゃんの人気が上がり過ぎちゃった。

 決勝で勝ったりされると、アタシ困るネ。

 次はアザムさんに勝って欲しいノヨ…………」


なんだかよく聞こえない声でファオランはヌツブツとつぶやいてたんだけど。

こっちに向き直ってニッコリ微笑む。


「決勝戦、勝てそうカシラ。

 負けちゃいそう、ナンテ思ってないカシラ

 13歳のステュティラちゃんが決勝まで来たのヨ。

 充分でショ。

 ここはアザムさんに花を持たせてあげるってのはどーカシラ」


「あのね、さっきのテトラのアリサマ見てたでしょ。

 これでアタシが棄権なんてしたなら。

 ウチの父親にアタシも殺される。

 敵わないまでも本気でやれ、ってのがあの父親の信条だし。

 アタシもそのつもり」


「ヤッパリー!?

 どーしよー。

 んんんんん。

 そうネ!」


ファオランはパチンと指を鳴らして何処かへ行った。


と思ったらエラちーのトコロへ行ってるわね。

なにかヒソヒソ話している。

なにかしら、あやしーわね。


アタシはロープを越えて、試合場に入っていく。

アザ熊は試合会場に立ったまま。

テトラと試合始める時点からもう傷だらけだったのに。

さらにヒドイ状態ね。


「えーとでは決勝戦なんですが。

 ここで一つ提案がありまーす。

 見ての通り、アザム団長は傷だらけ。

 ここで一度スィーナー先生に回復してもらうのはどうでしょう?」


周りの人たちに少し戸惑った空気が広がる。

勝ち抜きのルール。

それまでの試合で負ってきたダメージも実力のうち。

という形で来たのをいきなり変えようとしてるんだ。


「今までと少しルールが変わってしまうけれど。

 せっかくの決勝戦です。

 もちろん、ステュティラちゃんにも回復してもらって。

 お互い、元気いっぱいの状態で戦ってもらう方がいい試合になるんではないか。

 そーゆー提案があるんですが、いかがですか?」


アタシはピンと来た。

ファオランだ。

なんかヒソヒソ話をしてると思ったらー。

こんなアイデアだったのか。

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