第33話 父親

「アザムさん、頑張って下さいネ。

 アノ変な男をコテンパンにやっつけチャッテ」


ファオランはニッコリ笑って、アザ熊に言っていて。

テトラの方には一瞥もくれない。


テトラはアタシたちの見てる前で、地面にへたり込んだ。


会場の観客たちの反応は真っ二つ。


女性陣は。

なーによ、LOVEなのっ、と期待させておいて、一方通行の想い込みかよ。

それで会場で叫ぶとかやめてよねー。

割りと冷たいフンイキ。

アタシもそうだ。

キモイんだよ、やめれ。

アレがアタシの兄なのが恥ずかしい。


男性陣は。

あっちゃー、可哀そうに玉砕か、まーそんなもんさ。

オマエ、若いもんなー、へこたれんなよ。

生暖かい同情のフンイキね。


一人泣きそうになってるのがいるわね。


「うっうううううう。

 ティトラウステスくん、分かる。

 分かるぞ」

「サイラスさん、ナニ泣きそうになってるんですか?」


「アレシューーーッ!

 お前はーっ、あの彼の姿を見て胸が痛まないのか。

 俺は泣けて、泣けちまってしょうがないぞ」

「は、はい。

 テトラさん、可哀そうですね。

 …………一方的な思い込みでしょ。

 押し付けられ、こんなトコロで叫ばれても女性の方だってメイワクだっての……」

 

 

「ティトラウステスくん、大丈夫。

 立てる?」


地面に座り込んだままのテトラに審判のエラちーが訪ねる。


「………………ムリです」


「ティトラウステスが戦意喪失のため、

 決勝進出はアザム団長ー!」


アタシはまだ少しぼーっとしながら、それを聴いていた。

テトラのヤツ、負けてやんの。

へへへーん、ざまぁ。

決勝進出はアザ熊か。


あれっ、てゆーコトは…………


「ステュティラちゃん、これで団長と決勝戦だね。

 頑張って」

「みゃーみゃみゃ」


エステルと男爵がアタシに言って。

そっかー。

決勝戦でアタシにアザ熊と戦うんだ。


試合場からズルズルとテトラは引きずり出されてる。

自分じゃ歩く気力も無いのか。

ウチの道場の人間が引っ張り出してんの。


「何をしている、ティトラウステス!」


シカバネになり果てたアニキに声をかけたのは父親だった。


「父さん?

 み、見てたんですか……」

「見ていた。

 見ていたとも。

 ついに息子があのアザム団長と真っ向から戦うまでに成長したかと。

 父親として感動すら覚えていたと言うのに…………

 キサマと言うヤツはーーーっ!!!

 何と言う情けない姿を!

 自分の目の前で晒してくれるんだーっ!!!!!」


アタシとテトラの父、ターヒルが真っ赤になって怒っていたんだ。

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