第32話 ファオランの答え

「ファオランさん、見ていてください。

 アナタの為にこの試合必ず勝ちます」


多くの人が居るってのに、テトラは思いっきり叫んでいて。

言われたファオランは跳び上がって、キョロキョロしちゃってる。


「あの娘、前にエステルとライールが助けてあげたって言うチャイニャの商人の娘じゃ無いの。

 なになに、ステュティラちゃんのお兄さんたらあの娘とどーゆー関係なの?」


ヘレーナさんは興味丸出しでアタシに聞いて来る。

エステルもその後ろに隠れながらだけど、興味シンシンって表情。

何故かその膝の上で黒猫の男爵まで、同じ表情を浮かべてる。


少し前までのアタシなら「知るかっ、テトラのヤツ、キモイっての」と言い捨ててた場面なんだけど。

今のアタシはそんな風に切り捨てるのに少しタメらってしまう。

これは……もしかしてアタシも愛を知ったせい。

とりあえず、ヘレーナさんには答えておく。


「アタシは良く知らないっす。

 テトラに直接訊いてよね」



会場の人間が、なに言い出してるんだコイツ、と生温かい視線を投げてる。

男たちは、あー……若いからね、分かるけどイタイイタイ、見ててツライからヤメテ、って目を逸らしたがってる雰囲気。

女たちは、なになに気になる、ラブなの? 女の方の反応はどうなの?、ってヤジ馬根性丸出し。


自分のコトを言われてるんだって理解したファオランは青くなったり赤くなったりしていた。

やがて、ぴゅーっと試合場の方へ駆けだした。

テトラに文句を言うのかな、と思ってアタシは見てたけど。

ナゼか、ファオランはテトラじゃなくてもう一人の方へと走っていく。

アザ熊の近くへ。

会場中の人間が興味の視線で見守る中言ってのけたんだ。


「アノアノ、アザムさん勘違いしないで欲しいノ。

 ワタシあの男とはナンの関係も無いネ。

 ワタシアザムさんを応援してるヨ。

 チャイニャから来て、何の後ろ盾も無いワタシに良くしてくれて。

 すっごい頼りにしてるノヨ」

「え、そうか。

 それは……良かったけど。

 えーと、でも……ティトラウステス君は……」


ファオラン愛想良くて可愛い顔。

普段、カワイイと言うより元気で五月蝿いタイプだってのに。

今は少しはにかんだフンイキ。

アザ熊の前でカワイコぶってんな。


スッカリ無視された格好になったテトラ。

引きつった声で二人に話しかける。


「……ファ、ファオランさん?」


ファオランはその声が聞こえてるハズだってのに、完全に無視してる。


「アザムさん、頑張って下さいネ。

 アノ変な男をコテンパンにやっつけチャッテ」


テトラはアタシたちの見てる前で、地面にへたり込んだ。

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