第30話 闘志

「アザムさんが可哀そう。

 テトラさんひどい」


エステルは憤慨してる。

まー、確かに一方的にテトラがアザ熊を攻撃してるんだけど。

そこは怒らないであげて欲しーな。

試合なんだし。


それに今でもアザ熊の目は死んでない。

前のバル爺との試合でも、今のテトラとの試合でもダメージは蓄積されてるハズなんだけど。

闘志が消えていない。


徐々にアザ熊のファイティングポーズが変わってる気がする。

大きく構えて拳を振り上げてぶん殴っていたんだけど。

コンパクトに顔の前面に拳を構えて、振りを小さく相手目がけて撃つパンチに変っている。

その方がムダな体力も使わない。

今までの試合で見て覚えたのかな。

それとも、疲れた結果のグーゼンかもね。


「アザムさん、頑張れー」

「そんなヤツやっちゃえ」


「団長、アンタのパンチなら一発入れば倒せるぜ」

「ひきょーもん、逃げてばっかいるんじゃねーよ」


観客もほとんど、アザ熊の応援ね。


「テトラのヤツ、ワルモノにされてやんの。

 普段の悪行の報いね」

「えっ、ステュティラちゃん。

 ティトラウステスさん、なんか悪い事したの?」


「エステル、あの男ってばこんな可愛い美少女のアタシを練習で平気でボコにすんのよ。

 それだけでもサイアクでしょ。

 こないだはお菓子をアタシより一個多く食べたし。

 それにね……」

「あーステュティラちゃん、もういーよ。

 いわゆる兄妹ケンカなのね」


まー、それはそれとして。

テトラは普段、無表情なんだけど。

少し焦ったようなツラになってきてるんだ。

そりゃそーね。

観客がみんな敵と化したんだもの。


「くっ、なんでだ。

 アザム団長、タフ過ぎるだろう。

 それになんでみんな自分を悪役みたいに言うんだ。

 俺は愛のために戦っていると言うのに……」


うーん、あの顔。

自分は愛のために戦っているんだ。

とか、思ってそーね。

単に片思いしてるファオランに良いトコ見せたいだけでしょ。

そーゆーのは愛のためにとか言わないんだい。


……愛のために、ってのは、あの男の人みたいに……

「ステュティラ、凄く可愛いくて、美しいキミ。

 キミを傷つける事なんて出来るモノか。

 俺はこの戦いから身を引くよ」

みたいなコトなの……


「ステュティラちゃん、ステュティラちゃん。

 また何か、妄想が激化してる気がするよ。

 遠いトコロに行っちゃわないで、戻ってきてね」


アタシのハートが浮き上がって行こうとするのを、何故かエステルがジャマをする。

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