第28話 テレフォンパンチ

「アザム団長、いくら貴方でもその体では……

 試合はやめた方が良いと思いますよ」


テトラが言う。

エラちーも頷いているの。


「そーだよ、アザムさん。

 さっきから顔が苦しそうだよ。

 どこか骨にヒビでも入ってるんじゃないの」


「フフン、大した事は無い。

 テトラくん、キミこそ戦意喪失なら素直に負けを認めなさい」


アザ熊ったら意外とガンコね。

普段は物わかりのよさそうなオジサンなのに。


「……自分は戦意喪失などしていない!

 そうですか。

 では手加減無しで行きますよ」


テトラはアッサリ挑発に乗せられてる。

テトラは表情に出ないので知らない人間には冷静なヤツと思われがち。

だけど、アタシみたいにいつも一緒にいさせられる立場の人間から見ればそんなコトは無い。

怒りっぽいし、笑いだすと止まらない。

だから、けっこう簡単に挑発には乗るんだ。



「アザムさん、ティトラウステスさんを怒らせちゃっていいの?」


エステルは不安そうに見ている。

その膝の上にいつの間にか黒猫の男爵が乗っていて、みゃみゃみゃと同じ様に不安げ。


「アザムさんって言うの?

 あのクマみたいな人。

 大人だし、何か考えがあるんでしょ」


これはヘレーナさんの台詞。


やっぱりみんな戦い慣れて無いんだな。


「良いんだよ、怒らせて。

 アザ熊は戦いを早めに決着させたいの。

 試合が長引けば長引くほど、ケガしていて年齢的に回復の遅いアザ熊の方が不利になるってモンよ」


「へー、なるほど。

 さっすがステュティラちゃん。

 ターヒル道場の娘」

「みゃー、みゃみゃ」


エステルと男爵がアタシの方を見て頷いてる。

アッタリマエでしょ。



「仕方ないなー。

 アザムさんがどうしても、って言うなら……

 それじゃー、準決勝第2試合開始!」


エラちーが首をふりながら試合開始を宣言する。


テトラがススっとアザ熊に近付いて行く。

そのテトラ目がけてアザ熊はドカンと大振りのパンチ。


ダメージ受けてるハズだってのに、それをマッタク感じさせない気合の籠った拳ね。

でも、モチロン細身の男はそれを避けてみせる。

まー、一応はアタシのアニキだものな。


アレは喰らわない。

アザ熊の拳は、テレフォンパンチなんて呼ばれるヤツ。

なんでそんな風に呼ぶのかまでは知らないけど。

拳を握りしめて、大きく後ろまで振りかぶってドーンと突き出す。

肩の力も腰の力も入って、破壊力は増すけれど。

戦い慣れてる人間からみたら、ストレートパンチが来るのが誰にでも分かっちゃう。

避け易いパンチなんだ。

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