第27話 悲鳴

さて、アタシはまだ正気を取り戻していなかったのだけれど。

格闘大会は進んでいて。


「準決勝二回戦。

 我らが護衛団の団長、本物のクマにも負けないパワー、アザムさん。

 対しますは。

 格闘の申し子、ターヒル道場の師匠の息子、ティトラウステスさん」


アザ熊とテトラが試合会場に入っていく。

アタシは半分、ボンヤリしながらそれを見ていた。

親子くらいには年が離れた二人ね。


デッカイ体に大きい顔、ヒゲ面だけど、優しい雰囲気のアザム団長。

体格では完全にこっちが上。

アザ熊って何歳なんだろう。

アタシの父親はもうすぐ40歳。

それと同じか、少し上くらいかしら。


細身の体だけど、背はまあまあ高い。

全身に薄い筋肉の着いた締まった体つき。

アタシの不肖のアニキ、テトラ。

17歳だし、スタミナではテトラの方が上だと思う。


とりあえず、アタシとしてはアザ熊やっちゃえー、テトラなんてぶっ倒せー、って気持ち。


でもなー、アザム団長は結構ダメージを受けてる。

前の試合でバルビスって人と壮絶な殴り合いをやったんだ。

結果、年寄りのバル爺の方が倒れたけど。

アザ熊の方だって相当に殴り返されてた。

普通の人間だったらとっくにダウンしてるパンチをガンガンに喰らってた。

昼休憩を挟んだとは言え、アレだけ攻撃を喰らったらまだ回復して無いと思う。


テトラだって、パルミュス先輩との試合無傷じゃない。

鼻血を垂らしていたけど、休憩時間に止まったみたい。

若さではテトラが上。

すでにほとんど回復している。

アタシの見た感じ、ダメージは残していない。


本来の実力ならアザ熊の優位は揺るがないと思うんだけど。

アザ熊ってば、身体のいたるところにアザだらけ。

血は滲んでるし、青くなってる個所はあるし、色とりどりね。

アタシはそんな光景も今までに見てるけど、普通の女子だったら見ただけで悲鳴を上げそうな姿。


「キャッ!

 アザムさん、ひどい。

 傷だらけじゃないの。

 あれでこれ以上試合をするなんて大丈夫なの?」


ほらね、やっぱり。

このところ逞しくなってきているとは言え、ケンカや練習試合なんて見た経験の少ないエステルは悲鳴を上げてる。

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