第25話 ハートマーク

「ステュティラ、キミは可愛いくて、素敵だ。

 もう俺はキミに夢中なんだ。

 キミとホンキで戦う事は俺には出来無い」


ナッシーがアタシにそう囁いて。


「混じってる。混じってる。

 妄想がかなり混じってるよ!」


エステルが何か言ってる気もするけど、今のアタシには聞こえない。

意味も理解出来ないんだ。


だってアタシは雲の上に居る。

さっきまで試合場の整備された台の上に立っていたハズなのに。

足元がフワフワ。

アタシ、ホントーに立ってるのかな。

足元が浮き上がってたりするんじゃないの。


そのナッシーはテレてるのか。


「じゃあ、ステュティラの勝ちって事でいいな」


そそくさと去って行ってしまった。

その顔が赤くなっていたのはアタシの気のせいじゃ無い。


「アレシュのやろう。

 俺にこんなセリフ言わせやがって、今度ブン殴る!」


口元でブツブツと言っていて。

多分、今度ゆっくり二人きりで話そうな、なんて内容だったんじゃないかな。

そうよね。



「んーー、ステュティラちゃん勝ちってコトで良いんだね?」


エラちーがなんか言ってて、良く分からないままアタシはうなずく。


「はーい。

 じゃあ準決勝勝者はステュティラちゃん。

 ターヒル道場のお子さんが決勝進出を決めました」


会場がなんだかザワめく。

えーと、なんで騒いでいるんだったかな。


「ステュティラちゃん、こっちこっち。

 もう試合終わったんだよ」


エステルが手招きしてるので歩いて行くアタシ。

試合終わったの?

アタシ試合なんてしてたんだっけ。


「ああー、これはダメね。

 目がハートマークになっちゃってる。

 多分何言っても聴こえてないわよ」

「みゃーみゃみゃみゃ」


ロープの外に出たアタシを座らせて囲んでるのはヘレーナさんと黒猫の男爵。

アタシはヘレーナさんの隣に座る。

ほへー。

なんでアタシ立ってたんだっけ。


「凄まじく重症ね。

 もしかしてステュティラちゃん、初恋だったりするのかしら?」

「うーん、ステュティラちゃんはハンサムな人見るとすぐ騒ぐから。

 初恋ってコトは無いと思うけど…………

 でもそう言えば本気で一人の男の人が気になる、ってハナシ聞いた事は無いかも」


「みゃー、みゃみゃみゃ、みゃみゃみゃみゃーみゃみゃ。

 【にゃんとにゃくのカッコイイ人に対するアコガレ程度のモノから、ついに本気の恋に目覚めちゃったのね。

 それでその人から『可愛い女とホンキで戦うなんて出来ない』とか言われちゃったら……舞い上がるのもトーゼンね】」


むっ、ぼうっとしてるアタシだけど。

なんだか男爵からすっげぇ的確な指摘を受けたような気がするぞ。

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