第24話 嘘

アタシとナッシーを見て観客たちが沸きだす。


「なにあれ、なにあれ?!」

「ナシール様が、あんな小娘に!」


「あの子ったら、ナシール様に蹴りを喰らわしておいて! どうゆーコト!」

「いーえ、あれは対戦相手への礼儀よ

 ナシール様はラッキーの一撃とは言え、負けたコトを根に持ったりしない。

 相手が子供でも良くやった、と褒めてるに違いないわ」

「それね!」


「だとしても、あの小娘はムカツクわね」


アタシは頭がグルグルしていて、もう何だか分かんない。



エラちーが近付いて来る。


「ええと、じゃあナシールさんの敗北宣言で。

 ステュティラちゃんの勝ちってコトで良いんですね?」


その言葉でアタシの頭は冷えた。

さっきまでポワーンとなってた。

身体がフワフワ浮くみたいだったのが、一気に地面に足が着いた。

口から言葉が出ていた。


「なんでそうなんのよ」


だってアタシの蹴りは当たってない。

当たったとしてもかすめた程度。

ナッシーがダウンするほどダメージを与えたハズが無いんだ。


わーっとエラちーに抗議しようとしたアタシの口をまたナッシーの手が塞ぐ。

またー。

今度はほだされないわよ。

その手にアタシは噛みついて歯を立てる。


「痛つっ!

 狂犬かよ」

「なんだってやられたフリなんかすんのよ?!」


ナッシーがすぐそばで小声で話すもんだから、アタシも釣られて小声になっちゃう。


「いや、フリじゃねぇ。

 蹴り喰らってダウンしただけだ」

「ウソだわ。

 ほとんど当たって無いハズよ。

 手応え無かったもん」


小声で話してるアタシ達の近くにアレシュが近づいてくる。


「ナシールさん、ちょっとちょっと」

「アレシュ、なんだ今忙しいんだよ」


「ステュティラにはこう言ってやれば良いんすよ

 ………………」

「アホウ、そんな台詞、俺が言うか!」


「だって、そうしないとアイツ納得しませんよ。

 ステュティラ、単純なくせに怒らせるとしつっこいから」

「…………クソッ、やってみるか」


なんだか試合場のロープ越にボソボソ話していてアタシにはほとんど聞こえない。

そのうちナッシーがアタシの方へ向き直った。


「あのな、ステュティラ。

 俺が試合を降りるのはキミをバカにしてるからじゃない。

 キミが大事だからだ。

 未来の護衛団を背負う逸材だと思ってるんだぜ。

 それに……可愛い女とホンキで戦う事は俺には出来ねーよ」

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