第22話 妄想

アタシは試合会場に立つ。


向かい側には護衛団の副団長、ナッシー。

少しケダルい雰囲気でこちらを見る。

キリっとした眉に高く通った鼻筋。

やっぱしイケメンだ。


「えーと、お前新人。

 4番隊所属のステュティラだったな」


やっぱりー。

団員は多いってのにアタシの名前は覚えてんのね。

時々アタシにチラリと視線を投げてるな、とは思っていたのよ。


「しっかりして、ステュティラちゃん。

 若い女の子にありがちな妄想だよ」


……アタシの表情を読んでエステルが語り掛ける。

うるさいわね、自分でも分かってるんだい。

少しばかり妄想に浸ったっていいじゃんか。

減るモンじゃ無いでしょ。



「じゃー、試合開始!」


エラちーの声が響く。


とりあえず、やったる。

今は試合中。

戦いの時は余計な事は考えるな!

ってのが父親の教えなんだ。


アタシは拳を構えて、対戦相手に近づいていく。


ナッシーは俯いている。


「クソっ!

 なんでこうなっちまったんだ?

 ここで棄権と言ったら目立ち過ぎるか。

 だけど、この小娘に負けるなんてウソくさい。

 あり得ないだろ」


なんだかブツブツ小声で言っていて良く聴き取れなかったんだけど。

この小娘に負けるなんてあり得ない、と言っていたのは聴こえた。


コノヤロー!

カワイさ余ってニクさ100倍。

いくら相手がナッシーでもアタシをバカにするとどうなるか、教えてやろうじゃん。


ジャブからのストレート。

ワンツーパンチで相手に近づく。


ここでイキナリ必殺技いったれ。

アタシは道場で剣の修練を主にしていて、素手の格闘練習なんてたまにしか参加しない。

それでも練習試合に参加させられるコトはたまにある。

だって、道場に住んでんのよ。

365日実家で武術訓練やっていて、練習試合の相手勤めてくれ、と頼まれるんだ。

道場主の娘だからね。

全部断るワケにもイカナイ。


アタシが女の子だと思ってナメてかかるようなヤカラも居るけど。

そんなヤツにはコレ。


胴回し回転蹴り!


相手がアタシの拳に気を取られたトコロで。

前に飛び込んで自分の身体を横に倒しながら、それに合わせて脚を大きく振る。


アタシの必殺技なんだ。

図体の大きさじゃ、大人にアタシは敵わない。

拳を当てたって、大したダメージにならない。

だけど、この体重と勢いが載った蹴りを喰らうとみんな一発で倒れる。


欠点は当たらないコト。

身体を倒しながら、勢い良く脚を振る。

狙い定めてなんていられない。

イチかバチかなんだ。


相手がツワモノだったら当たる確率は2回に1回、ってトコロね。

でもアタシをナメてるようなバカモノには面白いように当たる。

喰らった相手はアタシをナメてた事を後悔するヒマも無く地面に倒れる


やっぱり。

残念ながらアタシの脚は空を切った。

足に相手が当たった手応えが全く無い。

元々当たり辛いってのも有るけど、ナッシーが避けたんだと思う。


アタシが倒れ込む瞬間、アイツの目が警戒したのが見えた。

ナッシー、さすがね。

見た目でアタシをナメるようなバカじゃなかったんだわ。

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