第10話 バルビス

アレシュのヤツは試合に勝って見せた。


「やったよ、エステル。

 見てくれた?」

「ええまあ。

 さすがアレシュ先輩。

 相手の気を逸らすなんて頭脳プレイですね」


まーその通り。

あっ、あれは何だ?!

対戦相手にアレシュはそんなコトを言って横を指差して。

振り向いた相手の隙に猛アタック。


「へへへへ」


エステルはお愛想で褒めてるのが丸わかり。

なのにアレシュは嬉しそうにしてる。

アタシはその顔目がけてグーパン。


「ステュティラ、なにすんだよ。

 勝ったのに何で殴るんだ?!」

「ウチの道場の人気が下がるような勝ち方すんじゃ無いわよ」


顔を赤くして怒ってたアレシュだけど、次のエステルの言葉で顔をマッサオにした。


「アレシュ先輩、次はナシール副団長と試合ですね。

 頑張って下さい」

「……あわわわ。

 俺、棄権しようかな」


「情けないわね!

 負けても良いから、とりあえず目いっぱい戦って来なさいよ」



第5試合もテキトーにアタシは観戦してた。

勝ったのはお爺ちゃん。


「わははは。

 このバルビスまだヒヨッコどもには負けんわい」


髪がほとんど真っ白、顔はシワくちゃ。

だけど動きは素早かった。


観客たちが騒いでる。


「凄いね、あのご老人」

「うん。あれが2番隊隊長のバルビスさんだ」

「あの人が?」


「さすがバルビス老人」

「護衛団最古参のメンバーだけはある」

「まだ現役の動きだな」


2番隊の隊長!

あのジイちゃんが?


「名前は聞いた事ある。

 2番隊隊長バルビスさん、船乗りなんだって。

 だから砂海賊退治に出てる事が多くて、本部にはあまり姿を表さないの」


エステルが教えてくれる。


ふーん。

砂船乗り。

確かに日焼けした肌。

背中の大きく開いた服から大きなタトゥーでイカリのマークが見えてる。



「んじゃ次々行くよ。

 第6試合目、登場は真打、我らがアザム団長でーす」


エラちーが言って、大男が試合場に進み出る。

アゴヒゲを生やしてデッカイ熊さんみたいな雰囲気。


「アザムさん、ファイト!」

「団長、団長!」

「アザム団長、頑張れー!」

「アザム、アザム!」


ナッシーに女子が色めきたったのと正反対ね。

むくつけき男どもから声が上がる。


団長はアタシもけっこう好き。

イケメンじゃないけど、温かい雰囲気を持ってるオジサン。

この人は信用できる。

そう思えちゃう。

そう言うのを人望って呼ぶのかな。

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