第12話 みゃみゃみゃ
「ファッティマさん、床に寝ないでください」
「あらら、いいのよ。
気にしないで~」
「良くないです。
そんな場所にいたら踏んじゃいますよ」
「後輩に足蹴にされた~。
うっうっうっ、ひどい~。
でもしょうがないわね。
私なんて後輩に踏みつけられるのが似合う人間なんだわ~」
まだホントに踏んでたりはしないのに。
床に寝そべったファッティマさんはそんな事を言う。
長くてウェーブのかかった髪で顔を半分隠したわたしの先輩。
その横には本。
場所は廊下だと言うのに、また本が無造作に置かれてる。
「どうかしたのか」
と隊室から出てきたのはトーヤー隊長。
凛々しい雰囲気の4番隊の隊長さんだ。
「ファッティマとエステルくんか。
ファッティマ、だからそこにいたらジャマになると言っただろう」
「ジャマにされた~。
一人で本を読んでるだけなのに、
私ってば誰にとってもジャマモノなんだわ」
「そんなコトは言っていない」
「ファッティマさん!」
わたしは昂った声になりそうなのを抑えて言う。
「廊下に寝るのはジャマです。
せめて部屋の中にしてください。
それと!
本!
本を適当に床に置くのだけはヤメテください!
貴重な本が混じってたらどうするんですか?!」
抑えたつもりだったけど、最後の方は怒った声になってしまった。
わたしがこんな声を出すのは珍しい。
少し驚いた顔でトーヤーさんがわたしを見てるのを感じる。
いけない。
冷静に、冷静に。
「ファッティマさん、わたしも本が好きなので……
本を雑に扱われるのはイヤです」
冷静に静かに言ったつもりだけど。
もしかして、ますますケンカを売るような雰囲気になってしまったかもしれない。
何故ならトーヤーさんは困ったような顔になってる。
ファッティマさんは泣きついてる。
「トーヤー、また私後輩に怒られた~。
ひどい~。
泣いちゃう~。
頑張って毎日護衛団の建物まで出てきてるのに」
それは当たり前でしょ。
護衛団の人間なんだから。
トーヤー隊長がわたしに向かって言う。
「落ち着いて、エステルくん」
何故、わたしに。
先にファッティマさんに注意して欲しい。
目の前が紅くなったような気がする。
ナニカがお腹の中から喉元へかーっと上がって来て。
わたしの喉からナニカが弾け出ようとした瞬間。
黒いものがわたしの胸に飛び込んできた。
黒くて小さな生き物。
それはわたしの家族、みゃーだった。
わたしの胸に飛び上がって黒くて丸い瞳で見つめる。
みゃみゃみゃ、と声を上げる黒い仔猫。
その声を聴いただけで、わたしの怒りは何処かへ飛び去ってしまった。
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