第9話 母娘ゲンカ

「何があったの?

 ホレホレ言ってみなさい」


そうわたしを促す母さんの顔は楽しそう。

悩みを聞こうとしてるフンイキじゃなくてタダのヤジ馬根性だと思う。


「だから……別に悪口とかじゃなくて……

 自分は嫌われてるとか言われるとこっちも対処に困るって言うか。

 その割りに自分は美人だって言ったりするし。

 言動にスジが通ってなくて……」

「うっわー。

 そりゃ困ったちゃんだわ。

 それも特上級ね。

 それでそれで、エステルは何があったの」


なんだか母さんがオーバーに反応しながら聞いてくれる。

ついつい釣られてわたしも話してしまう。


「別にわたしは……

 本が好きなのは一緒だから、そこは素敵だと思ったのに。

 だけど……

 人間には逢わないようにして本に囲まれて暮らす、とか言い出すのすごくイヤ!」


ああ、イヤ!とか強く言ってしまった。

そんな風に言う気は無かったのに。


「やっぱり今の取り消し!

 ファッティマさんは少し困った人だとは思うけど。

 先輩だし、いいの」


「フフフッ。

 エステル、なーんで?

 その人嫌な人なんでしょ。

 いいじゃない悪口くらい言っちゃって」

「ヤダ、ダメ。

 人のいないトコで悪口言うの嫌い」

 

「フフフッ。

 アハッハハハハハ」

「母さん!」


母さん、なんで笑うの!

わたしは本当に腹が立ってしまった。

拳を握りしめる。

これは久々のThe親子ゲンカ、本気モードだろうか。


「本当に……エステルはいい子だわ」


だけど、母さんはわたしを抱きしめた。


「良いの、良いのよ、たまに悪口くらい言っても。

 いっくらでも先輩の陰口叩いちゃいなさいよ」

「いやだ。

 納得いかない事は直接本人に言う。

 陰口キライ」


「でもねー、直接言ったらケンカになるじゃない。

 しかも相手が先輩だと大変よ」

「それは……だから言わない」


「それに……」

「……それに……?」


「良く知らない相手の場合、変に傷つけてしまう場合もあるわ」

「…………」


「あとねっ」

「……?」


母さんがなんだかニヤリと笑う。


「エステル、頭いいし。

 時々変に理屈っぽくなるじゃない。

 アナタ、口喧嘩実は得意なのよ」

「そんなコト無いよ」


「そうと言ったらそうなの!

 得意技で相手を負かしたがってるだ~け」


そうかな。

そんなコト無い……つもりだけどな。


みゃーがわたしを見てる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る