第7話 ファッティマ

「トーヤー隊長、あの人でホントに寮長なんて務まるんですか?」

「エステルくん、大丈夫だ。

 ファッティマは記憶力が良くて、人の顔と名前は忘れない。

 私は……美少女以外顔と名前が一切一致しないから。

 彼女のその特技は尊敬してるんだ」


それはまぁ、それなりにスゴイ特技かもしれないけど。


でも結局、ファッティマさんは図書館を出て女子寮に住み着いた。

入り口わきの部屋に陣取って、相変わらず床に寝そべって本を読んでるらしい。


チャイニャから来た女性、ファオランさんも女子寮に入ったみたい。


「助かるヨ。

 宿屋に泊まってると安い部屋を選んでも、ソレナリにかかるのネ。

 ここだと給金から少し引かれるケド、宿屋に比べればはるかに安いノ」


彼女も護衛団の団員と言えば、団員なのかしら。

装備課と言う薬や武器の様な必需品を売ってる場所が、護衛団の中に在ったんだけど。

いつの間にか売り場は広がって、チャイニャ服から香辛料、お菓子に玩具まで売ってるちょっとした商店になっている。

そこの店員と言うか、オシカケ店長と言うか。

アザム団長の許可は貰った、とかでやりたい放題ね。


ファオランさんは言う。


「あの寮長油断できないネ。

 こっそり帰っても絶対見つかるのよ。

 誰もいないと思って、ササッと部屋に入ろうとすると、何処からか声が聞こえて。

 『はい、ファオラン今月門限破り3回目~。

  3回からは寮の代金があがりまーす』

 なんて床に寝ながら言うノヨ」

「遅い時間に帰って……

 暗がりからあの髪で顔を隠したファッティマさんが現れたら……怖いじゃないですか」


「そうナノ!

 幽霊かと思っちゃうわよ」


わたしは女子寮にはあまり立ち入っていない。

だってお家で母さんと暮らしてるんですもの。

みゃーだって居るわ。

少しだけ寮暮らしなんてのも気にはなるけど家族と別れる気にはならない。


「ワルグチ言われた~。

 わたし幽霊みたいだって言われた。

 暗がりから現れたらバケモノみたいで怖いって言われた~」


うわっ、ビックリした。

いつの間にかわたしの後ろに長い黒髪の女性が立っていた。


「ひどい~。

 寮長の仕事一生懸命やってるだけなのに~。

 嫌われた~。

 やっぱり私が美人だからかしら。

 女の子には美人だと嫌われるんだわ~。

 うっうっう~。

 泣いちゃう~」


「ファッティマさん、誰も嫌ってません!」

「ホントウ~?」


涙目のファッティマさんがわたしに訊ねる。

子供みたいな仕草。


「ホントですっ!」

「ホント、ホント。

 ファッティマさんスゴイって話してたノネ」


はーっ、なんだかすっごく疲れる人だわ。

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