第2話 寮長?

「そんな訳でエステルくん、女子寮の寮長にならないか?」


「えええっ?

 だって……わたし寮に住む気は無いですよ」

「そっかー。

 分かってはいたんだが、もしかして、って思ってね」


護衛団に新しく女子寮が出来る。

トーヤー隊長は何を考えたのか、いきなりわたしに寮長にならないかと言い出したの。

男性が棲む古い建物から離れた場所に新しい白磁の建物が建設中。

わたしたちはその近くの広場で運動をしていた。


「トーヤーさんがやればいいじゃないですか」

「わたしは隊長としての仕事があるしな。

 これでも事務仕事けっこうあるんだぞ。

 これ以上はイヤだな」


「なに言ってやがる。

 事務仕事はほとんど俺にやらせてるじゃねーか」


言ったのはパルミュスさん。

クマさんみたいなアザム団長にも負けない体格の女性。

その腕には大きな筋肉。

わたしの倍以上に太いのは間違いない。

もしかしたらウエストくらいはあるのかも。

トーヤー隊長の下で副隊長みたいな立場なの。


「ああ、パルミュスはマジメだからな。

 助かってる。

 ワタシはどうも数字に弱くてな」

「数字が苦手なのはアタイも一緒だ。

 トーヤーがペルーニャの文字は苦手だと言うんで書類の作成だけ引き受けたんだぞ」


「わたしはなー。

 話す分にはナニ不自由ないんだが、書くのはちょっと……」


……事務仕事のお手伝い位ならわたしでも出来るかもしれない。

けどその寮に住まないのに、寮長になるのはさすがにちょっと……


わたしは気にはなるけど丁寧にお断りする。

仕方ないわよね。


「気にしなくていいよ、エステル。

 トーヤーがムチャな事言い出すのはいつもの事だ」


パルミュスさんがわたしのフォローをしてくれる。

乱暴そうに見えるけど、この人は気の良いお姉さんだ。


「ならやっぱり、ファッティマに頼むとするか」

「ファッティマかー。

 アタイ、あまりアイツと関わりたくないんだけど……

 まぁ、仕方ないか」


トーヤーさんとパルミュスさんが言っている。

ファッティマさん。

この流れで出て来たなら女性の名前だわ。

知らない、誰だったかしら。


「ファッティマさんて、どなたですか?」


4番隊の隊員さんかしら。

護衛団の4番隊は女性が中心だけど、見習いの男性も所属している。

わたしとステュティラちゃんも見習い。

18歳になって成人したら正規の団員と認められるの。


わたしは入団してそろそろ半年。

年上でも見習いの方とは一緒に修練したり、勉強するので名前も覚えてる。

正規の団員の方とはまだそんなに顔を合わせていない。

とするとファッティマさんと言う人は4番隊の正規の隊員かしら。

ならわたしも名前は知らなくても、護衛団で逢ってるかもしれない。


トーヤーさんが答える。


「ああ、ファッティマは図書館に住んでるんだけど、出てけって何度も言われてるんだと言っていた。

 自分は図書館に行くけど……エステルくんも来るかい」

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