護衛団見習いの日々

第1話 女子寮

「女子寮ですか?」

「うん。

 もともと自分はここの寮に住んでたんだ」


わたしはエステルと言います。

現在護衛団の中で修練中。

前にいるのはトーヤーさん。

わたしの所属する護衛団4番隊の隊長さん。


近くではわたしの友達のステュティラちゃんがパルミュスさんにいきなり襲い掛かっていく。


「えいやっ」


と、ステュティラちゃんは素早く木刀を振るうけど、パルミュスさんはその足を払う。

鍛えられた戦士であるパルミュスさんの足払いでステュティラちゃんはキレイにひっくり返った。


「ズルいっ

 足蹴りなんて無しよ!」

「無しじゃない。

 そんな事、誰も決めてねーぞ」


「ええええーっ?!」

「ステュティラはその辺が弱いよな。

 剣の腕なら確かに大したモンだけどな」


血気盛んなステュティラちゃん。

わたし達は現在準備運動。

トーヤーさんと前屈や背伸びをしながら、身体を温めてるの。


ステュティラちゃんとパルミュスさんも準備運動をし始めたかと思ったら、いきなりステュティラちゃんが襲い掛かったの。

奇襲なのね。

この友人の性格は良く知っている。

ダメだ、と言われたら奇襲だって戦法のウチよ、とでも言うんだわ。


近くでは黒猫のみゃーが丸くなってる。

半分寝ながら呆れた顔でステュティラちゃんを見てるの。

わたしの家の飼い猫なんだけど、何処へ行くにも着いて来ちゃう。

トキドキ変に人間くさい表情を浮かべるわたしの家族。


「女子寮なんてあったんですね」

「無かったよ。

 だから、造るんだって」


「え、でもトーヤーさん住んでるんですよね?」

「うん、そこの建物の中に。

 他は全員男なんで他の女性は住むの嫌がるんだ」


トーヤーさんが指さしたのは護衛団の本部の裏手にある建物。

下は道場ズールハネのようになっていて、上は少し古くて崩れそう。


「…………男性の団員がそこで寝泊りしてるのは知ってましたけど……

 あの……その中でまさかトーヤーさん一人だけ一緒に住んでるんですか?」


みゃみゃみゃっ!?

と、黒猫のみゃーが驚く。


うん。わたしも同じ気持ち。

トーヤーさんがいくら腕が立つと言っても、男性の中に女性が一人。

しかもトーヤー隊長は若い美人さんなのに。

長い黒髪を頭の横で結い上げて、クッキリした瞼。

キリっとした眉は意志が強そう。

カッコイイ雰囲気だけど、笑うと優しそうになるキレイな女性。

それが複数の男性と一つ屋根の下に暮らすって……その……。

わたしは少し変な想像をしそうになってしまう。


「ああ、三階の一番ハジの部屋を貰ってるんだ。

 でもわたしひとりじゃないぞ。

 パルミュスと一緒だ。」

「……なるほど」


そうか。

ステュティラちゃんの方を見る。

もうとっくに立ち上がっていて、これでもかー、とパルミュスさんに立ち向かって行く。

だけど、首根っこつかまれて仔猫みたいに持ち上げられてるの。

大柄な女性、パルミュスさん。


確かに……パルミュスさんが付いていれば、なにも危険は無いかも。

いえいえ、パルミュスさんだって妙齢の女性。

……パッと見は女性に見えないけど…………

そんな考え方失礼ね。


「…………」


わたしと同じ方向を見てるみゃー。

わたしと同じ事、考えていそうね。


だけど。

首の後ろをつかまれたステュティラちゃんが、ぽーいと放り投げられる。

手毬みたいにかーるく、木刀を振り回す少女を投げちゃったパルミュスさん。

真っ赤になって怒ってるステュティラちゃんを見ながら笑ってる。


「あっはっははっは。

 まだまだ、もう少し大きくなってから出直せや」


………………

やっぱり、この人に関しては何も心配いらないみたい。

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