第98話 二日酔いの男

「エステル……悪い。

 替わってくれ。

 父さん、もうダメだ」

「ええっ!

 どうしたの、お父さん?!」


砂海の小型船ニャビールジャーエヒの舵を取っていたライールさん。

現在船はザーヤンテ河を昨日と逆に進んでいるのよ。


「さっき荷物を持って、身体を動かしたら……

 昨日の酒が逆流して来て……

 ウップ、少し休ませてくれ」


ライールさんの顔がスッゴク蒼褪めてるの。

片手は舵を握って、片手を口元に。

逆流してくるにゃにかを堪えるフンイキ。

いやーん。

やめて、やめて。


慌てて舵をエステルちゃんが受け取る。


「えっ?えっ?

 河の流れを遡って走ってる!

 これ、どーしたらいーのよ?

 父さん?!」


ライールさんは船の脇に顔を出して堪えてる。


「エステル、河の流れに真っすぐ進もうとしちゃダメだ。

 ナナメに進むんだ。

 水の流れる力を横に受け流す。

 その時少し後ろに受け流すようにしてやって、後風の力を借りれば前方に進んでいく」


ライールさんは必死で叫んだ後は、船の外に上半身を出してダウンね。


「えっ、こうかな……

 ホントだ。

 ナナメ前方に進むよ。

 だけど……ムズカしいーー。

 水流で後ろにも流されちゃうよ」


エステルちゃんは舵を回したり、戻したり。

小型船は川岸に近付いて、逆向きへ。

また川岸へ近づいて逆向きに。

ジグザグと進むの。

ホンのちょっとだけ進んでるけど……

ほとんど前進出来てにゃい気がするわ。


「エステル!

 危ない、別の船に当たっちゃうわ!」


「うわっ、うわわわわ!

 ゴメンなさい。ゴメンなさーーーい!!」


フラフラと進む小型船を、他の人の船が上手く避けてくれた。

エステルちゃんは頭を下げてるけど、もう通りぎた船の人には見えていにゃいわよ。


「エステル、他にも船が来てる」


ステュティラちゃんの言った通り。

ここは大河ザーヤンテ。

船は幾つも通ってるの。

河の幅が広いから、ぶつかったりはしてにゃいけど。

エステルちゃんのにゃれにゃい舵取りじゃ、正直かにゃり危険だわ。


「どうしよう、どうしようーーー!?」


エステルちゃんは舵を切って、小型船は進んでる。

進んではいるんだけど、たどたどしい船の動き。

進んだり少し戻ったり、水の流れに逆らう不自然な船の操縦にエステルちゃんは苦戦してる。

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