第94話 猫を探す少年

「そこの黒猫。

 キミだよ、少し顔をよく見せてくれないか」


前髪を切り揃えた少年がエステルちゃんにはにゃしかけるの。


「……皇子では無くて……えーと。

 アズダハーグ坊ちゃん、もう帰りませんか」

「いや……今ちょうど」


「そうですよ。

 これ以上オシノビで出歩くのはムリが有るってモンでさ」


少年は昨夜逢ったアズダハーグ皇子。

さらに横に居る二人、昨夜の護衛の戦士と兵士の人だわ。



「なによ、エステルになんか用なの。

 アンタ気安くレディーの肩に触るなんて。

 手が早いわね」


ステュティラちゃんが皇子とエステルちゃんの間に割り込む。

わたしがエステルちゃんの肩に乗っていて。

黒猫に手を伸ばした少年は、確かに少女の肩に触れようとしたみたいに見えちゃうわ。


「……違うっ。

 僕はタダ、その黒猫をよく見せて欲しくて……」


「……男爵?」

「みゃーを?」


ナンパに間違えられた少年は少し顔を赤らめてるわ。

最近はナンパって言葉使わにゃいかしら。

今はにゃんて呼ぶのかしら。

……マッチングアプリ?

はにゃしが逸れちゃったわね。


アズダハーグ皇子は慌ててはにゃしだすんだけど。

どう説明していいのか、整理されてにゃくて混乱してるみたい。


「……えーとちょっと黒猫を探していて……

 その僕……昨日黒猫に助けられたと言うか……

 恩があると言うか……えーと

 猫に助けられたなんて言っても意味が分からないかもしれないけど。

 でもその事実で……

 僕ちょっと……どうしてもその猫に逢いたくて……」


「ネコに助けられた……?

 何言ってんのコイツ?」


少年の後ろの男たちに顔を向けるステュティラちゃん。

この子、もしかしてちょっとおかしいの?

表情にそんな思いがロコツに出ちゃってる。


「キサマ、皇子に対して無礼な!

 いや、皇子と言う事はナイショであったか。

 坊ちゃんに対して無礼な!」

「いやー、この女の子の反応もムリはねぇよ。

 オレいまだに夢じゃねぇかと思うもん」


アズダハーグ君、わたしに用なの?

とりあえず知らんぷりしときましょ。

わたしはエステルちゃんの肩の上、明後日の方向を眺めるの。


「……やはりこの猫、似ている気がする。

 昨日の猫じゃないか。

 おいっ、どう思う?」


少年が訊いてるのは御付きの二人。


「……確かにキレイな黒猫。

 似てると言えば……似ておりますが」

「わっかんねぇよ。

 猫なんて毛並みを覗けばみんな同じ顔だろ。

 真っ黒な黒猫なんだぜ。

 区別つくモンかよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る