第82話 フシギ

イルファン隊長が身を屈める。

河原の石に耳を当てているの。


「むう。

 イカン、凄まじいまでの振動音だ。

 これはこの辺一帯、全て水に呑まれるぞ」


そうよ!

さっきからそう言ってるじゃにゃいの。

にゃのににゃんでグズグズしてるの。

とっとと逃げましょ。


「アジ・ダハーカ殿。

 拙者としては貴方の話は大変興味深く、ずっと聞いていたい位なのだが……

 そうもイカン。

 このままでは拙者も貴方もザーヤンテに呑まれる。

 ……失礼する」


そう言って、イルファンさんは皇子の身体を抱きかかえようとする。

イルファンさんはスポーツマンのようにゃしっかりした体格の男の人。

アジ・ダハーカさん? アズダハーグ皇子?

どっちのにゃ前で呼ぶべきにゃのか知らにゃいけど。

その少年は中学生になるかどうかの細身の子供。

抱き上げるくらいは出来そうね。


「待ってください、男に抱かれるシュミは私には有りませんが」

「そんな事を言ってる場合では無かろう」


「私を外見で美少年だと思って、ナめていませんか。

 我はこう見えてもアジ・ダハーカ。

 伝説の邪龍だと言っているでしょう」


アジ・ダハーカさんはスゴむの。

その眼つきはギラギラと光り。

横では両肩からウネウネと蠢く蛇の顔だって目がギラつくのよ。

確かに迫力がにゃいコトもにゃいけれど。


少年自体はまだ子供の身体。

体格だって細身の少年。

オカッパ頭で上品な雰囲気。

スゴんで見せても、お坊ちゃんが不良のフリしてるくらいにしか見えにゃいわよ。


「落ち着いて欲しい。

 アジ・ダハーカ殿とて、水に圧し流されたいワケでは無かろう。

 抱くのがイヤなら、拙者の背にオンブするのはどうだ」

「あなた、本当に変なシュミ無いでしょうね。

 ここは仕方ないでしょうか。

 ……しかしまったく緊迫感が湧きませんね」


にゃんでよ。

もうわたしの耳には聞こえてるのよ。

轟々と鳴り響く水の音。

危険がデンジャラスにゃのよ。

危にゃくてぴんちにゃのよ。


「……それは拙者もそう思わんでもないが」


イルファン隊長までそんにゃ事を言ってる。

もうこのままだと死んじゃうって言ってるでしょ。

だからわたし疲れてるって言うのに、男の人二人も担いでるのよ。

あにゃたたちも真剣ににゃってよ。


「あのですね…………

 ちっちゃな黒猫が、図体の大きな兵士を二人も背中に載せている。

 どう考えてもおかしいです!

 奇妙な光景としか言いようが無い」

「確かに!

 拙者も、どうやってバランスを取ってるのか。

 フシギでならん」


にゃによ、それ!

わたしのせいだって言うの。

わたしだって頑張ってるのよ。

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