第81話 土石流

「くっ!

 いつの間にか暗殺族セムが一人いない」


イルファンさんの言う通りだわ。

わたしのにゃげ矢を喰らってダウンしていたハズの男。

気が付かないうちに姿をくらましている。


「さてはヤツが河の水門に細工したな」


アッラーヴェルディーハーン。

ザーヤンテ河の水を堰き止める巨大なダム。

だからわたしたちの居る下流にはそこまで多くの水が無い。

その堰き止められた水がはにゃたれたんだわ。


巨大な水の勢いはトンデモにゃい力を持つ。

河原の石も巻き込んで、土石流となって全てを呑み込んでにゃがしてしまう。


「アズダハーグ皇子……

 いや、アジ・ダハーカ殿。

 拙者が貴方を抱いて行こう。

 まずは逃げるとしよう」

「貴方は、どなたなのでしょう?

 名前も知らない方の世話になるつもりは無いですね」


「名乗り忘れていたな。

 これは失礼した。

 拙者の名はイルファン。

 自由交易都市ホルムスの護衛団、3番隊の隊長を務めている」

交易都市ホルムスですって、護衛団。

 何故、そんなトコロの隊長が私を助けようとするのです?」


「頼まれたのだ。

 護衛団の団長の名はアザム。

 聴いた事があるか?」

「……アザム……

 知りません、何者です?」


「そうか、ならば覚えておいてくれ。

 アザム殿は貴方の味方だ。

 アズダハーグ皇子と親交を結びたがっている」

「フフフフフ。

 皇子の権力目当てですか。

 どうやら似たような目的でこの身体にすり寄って来る連中は多いようです。

 アザム、分かりました。

 その名は覚えておきましょう」


「アザム殿は権力目当てでは無いのだが……

 いいだろう、すぐに全てを分かって貰おうとは思わん」

 

みゃみゃみゃみゃーん。

わたしは警告の鳴き声を発する。


もう近くまで轟音が聴こえてるってのに。

にゃに悠長にお喋りしてるの。


その間にわたしはちゃんと働いてるのよ。

護衛の人と吹き矢にやられた兵士。

二人を引っ担いで、せにゃかに載せてるの。

この二人が河に呑まれちゃったらタイヘンだわ。


他にもイルファンさんに倒された暗殺族セムの人もいるんだけど。

そこまで面倒みきれにゃいわ。

この河を暴走させたのが、お仲間にゃのにゃら自業自得。

自分で泳いで切り抜けてよね。


「……器用なモノですねぇ。

 小柄な猫が、人間二人も背中に載せてバランス取るとは……

 ナカナカの芸当と言えます」

「うむ。

 さすがは神の遣い。

 黒猫男爵と名乗るだけはある」


だから!

にゃんでそこの二人は余裕にゃのよ!

そんにゃよゆうにゃのにゃら手伝ってよね。



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