第50話 シルクハット

「アナタ!

 酔っぱらってるんじゃないノ!」


ファオランさんがシルクハットのナイフ使いに指を突き付ける。


そうにゃのよ。

この男、ワインを3杯も飲んでるトンデモナイ男にゃのよ。


「いや、違う、違う。

 ……コホン、手が少し汗で滑ったんだ。

 助けてくれたのは礼を言う。

 しかし……変な言いがかりは止してくれ!」


この男!

言い訳して、逃げるつもりね。

サイテー!


「アノネ、わたし父親のやってるお酒を出す店で働いた事もアルノヨ。

 酔っぱらいの挙動くらい分かるワ。

 バレバレよ」


道化師の扮装の男が顔色を変える。


「アンタ……ミスったのか!

 このバカ!

 だから仕事前に酒は止めろと言ってるだろ!」


「違う!

 ホントに汗で滑っただけだ。

 酒なんか関係無い」



「だったら……

 アナタ、わたしに向かってまっすぐナイフを投げて見なさいヨ」


トンデモナイ事をファオランさんは言いだす。


「どうしたネ、ナイフ使いの名人が聞いてあきれるワネ。

 縛った女の人は狙えても、女の子にはナイフが投げられないノ。

 自信が無いんでショ。

 ホントは酔って、フラフラって認めなさいヨ」


シルクハットの男が赤ら顔を更に赤くするの。


「自信が無いワケあるか!」


「バカ!

 ヤメロ、相手はシロウトの少女だぞ。

 ケガさせたりしたら……」


「フッザケんなー」


やっぱり酔ってるのね。

容易くキレた男はナイフを上に構える。

そして、あろうことか、ファオランさん向かってにゃげつけた。



「お嬢様!」


誰かしら?

その時スゴク慌てた悲鳴が聞こえたわ。



エステルちゃんも、キャッと口の中で悲鳴を上げる。

だけどエラティさんは余裕の表情ね。


「ダイジョーブさ。

 彼女の動きなら……あの程度」



エラティさんの言う通り。

ファオランさんは彼女目掛けて飛んでくる刃物を、下から手のひらで軽く叩く。

ナイフの横面。

尖って無い部分を狙って、上へ跳ね上げた。


上空で勢いをにゃくしたナイフがゆっくりと下へ落ちて来る。

そのタイミングを狙って。

ファオランさんは華麗に右足を回転させる。


みごとなハイキック!


ナイフの柄の部分を蹴り飛ばすの。

逆向きに飛んで行った刃物がキレイに突き刺さるわ。


何にって?

ナイフ使いの男のシルクハットに!

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