第42話 ツバメのタトゥー

船着き場に着いたわたしたち。


大きな橋のようにゃモノが見えていて。

ライールさんによると実際にはダムとしての役目も果たしているらしい。


堰き止められて、この近辺ではゆったりした水の流れね。


「明日まで預かっておいて貰えるか」


「あいよ。

 コイツは……普通の船じゃねぇな。

 砂船じゃねぇのか?」


「そうだよ」


「アンタ……エウロペ人か。

 良かったら、こいつ売らねえか?

 このサイズで高性能な砂船なら、高く売れるぜ」


「俺は商人じゃないぞ。

 こう見えても、自由交易都市ホルムス砂船乗りシンドバットだ。

 自分の船を売ったりするかよ」



ライールさんは自分の袖を捲り上げ、肩のタトゥーを見せている。

そこにあるのは錨のマーク、さらに上に鳥の絵。

アレはツバメかしら。


錨は、船乗りのシンボルよね。

翼を広げた青い鳥のタトゥーを見た船着き場の人は軽く口笛を吹く。


「ヒュー!

 長距離を旅したベテラン水夫にしか許されないスワロゥの入れ墨かよ。

 自治領ホルムス誇り高き船乗りシンドバットってのは嘘じゃないらしい。

 こいつは悪かったな」


「気にすんなよ、兄弟。

 砂海ニャビールだろうが、大河ザーヤンテだろうが。

 船乗りはみんな兄弟さ」


そんにゃ会話があって、砂海の小型船ニャビールジャーエヒをライールさんは預けた。


やり取りを見ていたエステルちゃんは、お父さんカッコイイ!、にゃんて憧れのマナザシね。


うーん。

水夫には水夫のジョーシキが有るんでしょうから、口は出さにゃいけれど。

わたしは入れ墨ってどうかと思うわ。

エステルちゃんはマネしてタトゥー入れたりしちゃダメにゃのよ。



「エスファハーンは河の街とも呼ばれてる。

 ザーヤンテからそのまま、街の中央に入っていけるんだ」


エラティ隊長が歩いて行く。


「……あれっ!

 あの黒いのどこ行ったのよ?」


「いつの間にかイナクナッチャッタ?!」


イルファン隊長はいつの間にか姿を消してるわ。

船を降りる時にはまた黒装束に身を包んでいた男。


と言ってもわたしは気が着いてるんだけど。

ネコのセンサー、おひげが教えるのよ。

横の木の陰に人の気配。


スススっとステュティラちゃんたちには気付かれないよう移動していく。

街に入るには検問の様な場所が有って、わたしたちはそこに並ぶ。

けど人影は塀を乗り越え、姿を消すのよ。


街を守る衛兵にも気づかれにゃかったみたい。

わたしは気付いてるけど。

プロの衛兵さんの目もかいくぐったという事は、思ったよりも優秀にゃのかしら。

護衛団3番隊隊長、イルファンさん。

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