その3 エスファハーン

第41話 猫の本能

現在、わたしたちを乗せた小型船ジャーエヒは川の上を移動してるの。

周囲は水に覆われている。

大河ザーヤンテ。

水の上って気持ちが落ち着くわ。

マイナスイオンエネルギーね。



「おおっ、スゴイ速さネ」


「景色がドンドン流れてくー。

 楽しー」


ファオランさん、ステュティラちゃんが歓声を上げてる。

わたしも少し楽しい気分ににゃってる。


ずっと水気の無い乾いた砂の海を見ていて、見慣れるとアレはアレで美しい眺めだけど。

タマにはこんにゃ水の景色も良いわよね。


だけど、にゃぜかしら。

船のヘリから顔を出して、水面を覗こうとするとわたしのネコのカラダがすくんじゃうの。

尻尾がヘナヘナと足の間に隠れちゃうわ。


「ええっ?!

 これ全部水ニャの!

 いやー、怖ーい。

 虎タルー、アタシを守ってー!」


「これがウワサに聞く、イズミってヤツかみゃ。

 ウワサで聞いてたのは静かにゃトコロみゃんだが……

 意外と騒がしいみゃ。

 カラダが震えてくるぜ。 

 リリー隠れてろみゃ」


白猫のリリーちゃんは怖がってるし、虎タルさんも敬遠気味。

言っておくけど、泉じゃにゃいわよ。

これは川。

虎タルさん、街ネコですものね。

交易都市ホルムスの近くにある水場と言えばニャーヒード様の泉だけ。

川を知らにゃかったのね。


そう言えば猫って……水がニガテだったかしら。

源五郎丸もお風呂の水をコワゴワと眺めてたようにゃ記憶がある。

だから、わたしの身体もコワがってるのね。


わたしの意識は川面を見たがってるんだけど、猫の本能がイヤがってる。



「父さん~。

 そろそろ舵替わってよ。

 わたしも川の上で操船してみたいよ」


「エステル……

 この辺の川の流れは速いんだ。

 止めておいた方がいい」


「ええー、そんなー」


「分かったー。

 泣きそうな顔をするな。

 帰りだ、帰り。

 明日、エスファハーンから戻る際の舵を頼む。

 だから今は見るだけにしておくんだ」


このまま川のにゃがれに乗って行けば、大きな街エスファハーンに辿り着く。

そこで今日は宿を取るつもりにゃの。


上手く、ファオランさんの親がいる商隊に巡り合えればいいんだけど。

エスファハーンは相当大きいらしい。

簡単に行くかしら。

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