第35話 影に潜む

「何だったのよー?」


ステュティラちゃんは剣を置いて、疲れた風情。


「……おそらくはセム族の住んでいた領域をこの船が気づかず侵してしまったのだろう。

 それで吹き矢で攻撃されたのだ」


答えたのはイルファン隊長。


「セム族って……砂漠に住んでいたって人達ですか。

 もういなくなった、って聞きますけど」


「そうだな。

 ペルーニャ帝国に排斥され、

 ミャンゴールの侵攻も喰らった。

 砂漠にはもう誰も住んでいないと言われているが……

 実際には少数の部族が生き延び、暮らしている。

 普段は隠れ住んでいるが、領域を侵した相手には容赦しない集団だ。

 更には、暗殺の様な影の仕事を街から請け負っているというウワサもある。

 近寄らない方がいい、危険な種族と言えるだろう」


エステルちゃんの疑問にもスラスラ答えるイルファンさん。

さすが密偵、イロイロ事情通にゃのね。


わたしは甲板デッキにもう上がってきている。

エステルちゃんたちはパピルザクに気を取られていた。

わたしが船から出て行って、戻って来たにゃんて気付いてにゃいハズよ。

だけど。

にゃぜかエラティさんだけわたしの方を見て、良かった無事だったんだね、と言う風に微笑んだ。


そして虎タルさんはわたしの方に飛んで来た。


「アネさーん、さすがでみゃんす。

 さすがでみゃんすー」


抱き着いてこようとしたけど、わたしはサッと避ける。

あにゃた、わたしより大きい図体にゃのよ。

圧し潰されるからあまり近寄らにゃいで。


白猫のリリーちゃんは呆然とわたしを眺める。


「呆れたわ。

 あんにゃ魔物どもに襲われて無傷だにゃんて。

 女王って虎タルが呼ぶだけあるのね」


「……しょうがにゃいわね。

 虎タルはアニャタのモノよ」


いや、わたしのモノじゃにゃいわよ。

要らない、要らない。

リリーちゃん、にゃんかカンチガイしてると思うわ。



その頃、船の上に居たわたしは気が付かにゃい。

……気が付かにゃいけど。


砂漠の岩場の影。

暗闇から黒いモノが動き出す。

囁き声がするの。


「……逃げたか……」

「パピルザクを引き寄せる力があるのは実験出来たが……

 同士討ちしてしまうのではな……」


「……同士討ちか……

 魔物ダェーヴァの仲間割れと言うより……

 小さい黒い動物にやられたようにも見えたが……」


「……なんだ?

 何か言ったか……」


「いや、何でもない……

 気のせいだろう……」


黒いマントを被り、影の中に潜むモノ。

その声にまでわたしも気が付く事は出来にゃいの。

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