第18話 ザッハーク

「エスファハーン……

 ダメだ、エステル。

 蛇王ザッハークが居たら、どうするんだ。

 近付いちゃ危ない!」


「大丈夫よ、父さん。

 ザッハーク皇帝は夏の間、エスファハーンに滞在するんだけど。

 いまくらいはもう冬の宮に移動してる時期だって」


「そうなのか……

 しかし彼の率いる兵たちは乱暴だと聞くぞ。

 出会いたくは無いな」


「……良いだろう。

 来週の航海まではまだ間がある。

 父さんが送って行く。

 エステルは危ないから来るな」


「ええーっ?!

 あたしもジャーエヒ乗りたい。

 エスファハーンだって見たいよ」


バゼル先生とエステルちゃんの会話を昼間聞いたわたし。

それによると、皇帝は夏と冬で居場所を変えるらしいの。

冬の間は西方の都バビロン、夏の間は大河の都エスファハーンにいるんだって。

避暑地みたいにゃモノかしら。


言い争いの結果は…………

トーゼン、ライールさんが負けた。

エステルちゃんにヘレーナさんも味方した。


「ライールが気にするほど、ザッハーク様は悪い人じゃないわ。

 確かに最近評判良くないけど……もともとは暴君ジャムシードを倒してくれた方よ」


ヘレーナ、エステル連合にライールさんがかにゃうハズがにゃい。



わたしの方は夜の街へ、少しお出かけするわ。

交易都市ホルムスの大通りは夜でも真っ暗ににゃらにゃい。

至るところに灯りが付けられ、開いてるお店も多いの。


でも路地裏はさすがに暗い。

黒猫のわたしが歩いても、人間には見つけられにゃい。

イルファンさんに闇に溶け込むってこういうコトにゃのよ、と教えてあげたいわ。


わたしが向かってるのはお姉さんシャム猫のお家。

白い体で手足の先が黒い細身の奇麗なお姉さん猫。


「いいじゃにゃいか、シャムー」

「あらん、ダメよ、グレイ」


「そんにゃ冷たいコトいうにゃよ。

 ホントにお前のコト愛してるんだぜ」

「ダメだったら~。

 もう恋の季節はオシマイよ」


コホン!


わたしが咳音を立てたら、灰色の猫が飛び跳ねた。


「にゃ、みゃみゃみゃみゃんで、みゃー様がここに……

 いや、そのあの……違うんです。

 私はみゃー様一途です。

 これはその……恋の季節の出来心ってヤツでして」


跳び上がったのはもちろん『逃げ足のグレイ』さん。

背の高い灰色猫ね。


変な慌て方しにゃいでよ。

まるでわたしが夫の浮気現場に突入した奥さんみたいじゃにゃい。


シャムのお姉さんの所にグレイさんが愛の言葉を囁きに毎日来てる。

そんなはにゃしをお姉さんから聞かされたから、来てみたのよ。

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