第2話 はじまりのはじまり

いつの間にか源五郎丸は冷たくなっていた。

わたしの膝の上に乗っていた猫。

温かく柔らかい生き物だった。

その肉体は既に冷たく固い。


そうなの。

お前も先に逝ってしまったのね。


元はノラ猫だった源五郎丸。

いつの間にか我が家に住み着くようになった。

あの頃はまだあの人がいた。


図々しい猫だなぁ。


わたしの膝の上で丸くなる源五郎丸を見て夫はそう言っていた。

わたしが喉を撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らす。

あの人が撫でても知らんぷり、時には逃げ出そうとする。

夫は臍を曲げていた。


そいつはノラ猫だ。

お前に懐いてるだけで、ウチの飼い猫じゃないからな。


でもわたしが居ない時を狙って、エサを挙げていた。


ホラ、煮干しだぞ。

どうだ、旨いか。

よしよし、俺の膝の上にも乗ってこい。


フフフ。

懐かしいわね、アナタ。


口に出そうとして思い出す。

もう、あの人はいない。

数年前、猛暑に先立ってしまった。

年齢的に男性の平均寿命を越える。

大往生だ、ご近所の人はみんな言っていた。


今頃、どうしてるだろう。

時代劇をテレビで見るのが好きだった。

大河ドラマもね。


俺はお侍になりたかったな。

剣を鍛えて、主君を守る。

そんなのがいいよな。

憧れる。


もう老人だと言うのに。

瞳を輝かせて言ってた。

男の人がいつまでも子供だと言うのは本当ね。


生まれ変わって侍になれたかしら。

誰かを守って戦ってるだろうか。

わたしも誰かを守って戦う。

そんなのもいいかもしれない。

あの人の隣で……。

それとも源五郎丸みたいに気ままに生きる猫。

それもいいな。


なんだか声が聞こえる。


・・・・・・・・・

おい、これどっちがどっちの望みだよ。

知らん、ほぼ同時に亡くなってるんだ。

どうすんだよ。

望みはというと。

誰かを守って戦う、凄く強い侍になりたい、生まれ変わっても猫でいたい、猫になりたい、お魚食べたい。

どっちがどっちの望みか分かりようがないな。

両方叶えて置けばいいんじゃないか。

間違いじゃ無いだろ。

・・・・・・・・・


同時に亡くなってる。

誰と誰の話だろう。

そんな事を考えながら。

わたしの意識は拡散していった。

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