第8話 矛盾した気持ち
「確かにあれから消えてしまったわ……あのおじさん」
「やっぱり……」
鉄平は前日の黒いスーツの男とおじさんの幽霊が消えた話を御影にした。
「でもあとあの中で彷徨っている幽霊もいるけど……なぜか行き止まりのところに逃げているものもいたし、おじさんと同じように消えている幽霊もいたわ」
「えっ……」
鉄平は真っ青になった。確かに幽霊におちょくられてはいたが、どんな幽霊がいたとか細かくは把握していなかった。それをしっかり覚えていた御影。
「昨日のモニターを見たけど……黒スーツの男は一人で迷路に入ってそれですぐ帰ったみたい。他の施設に入ったかは聞いてみればわかるけど……」
「まずはその男がなにものか」
「……黒スーツ、サングラス……」
御影がつぶやく。何か心当たりがあるようだ。
「その男は関西弁喋ってなかった?」
「あ! 喋ってました」
「……もしかして」
御影はスマートフォンでとあるサイトを開いた。
と、出てきたのは……あのスーツの男である。あの時鉄平には仄かな光の元でしか分からずはっきり分からなかったのだが。
「この写真もはっきり分からないけどあの時と似たようなスーツを着ている。そうだ、両手にDAIGOみたいなグローブつけてたのは覚えています」
「メンタリストのほうじゃないか」
「は、はい……バンドのボーカルでお姉さんが漫画家の」
御影は笑った。鉄平は普通に返したつもりだったのだが。
「あんたがなんでDAIGOのお姉さんが漫画家って知ってるのよ」
「知識の一部です。ついでにいうと奥さんは女優の……」
「まぁいい。じゃなくて顔はネットだからか隠しているようだけど身なりからしてこの人ね」
鉄平はまじまじと見る。
「令和の陰陽師……うさんくさっ」
「でしょ! でもね、この人相当やり手みたい。ネットの掲示板で見てきた」
鉄平は御影が悪口や批判も多い掲示板を見ているのか、と意外だと思いながらも耳を傾ける。
「口は悪いが憑き物が取れた」
「胡散臭いが効果は現れている」
「怖いけども優しさと愛に包まれた私の父は安らかに成仏されました」
そんな書き込みが続く。
「……そういえばおっさんの幽霊もあの下がしゃべるとだんだん小さくなって最後には消えたんだっけ」
「これは本物よ。色々探したけど偶然にも見つかった……」
だが連絡先も何も載っていない。
「どうやら紹介かその時に出くわしたかでしかでしか依頼を受けてないそうよ……あの時捕まえてれば」
「でもあの人がそんなすごい人とわからなかったし……それよりもあのおっさんが消えてしまった」
鉄平は思い出す。確かにずっと締め点検の時におちょくられていたが身体的に酷いことをしたわけではない、そしていないことでなんだか物足りないと感じてきたことを。
鉄平は子供の頃から霊感があった。でもそれを霊感であることは高校生の頃に同じく霊感のある母親に言われてから。
それまでは普通に幽霊たちとは分け隔てなく生活していたわけである。
あのおじさんの幽霊が成仏してしまっていなくなる、なんだが寂しいという変な矛盾に陥るのだ。まぁ今回がそういうことは初めてではなさそうだが。
御影もなんだか悲しい顔をしている。
「追い出すというと言い方酷いけど、私はコントロールできてたのよね。最初にビシッと言ったから。でも……ここにいる幽霊さん達はいろんな理由でここに彷徨ってきたんだからいつものお客さんと同様に気持ちいい状態でゴールさせたいね」
「ですね……この陰陽師さんみたいのを呼んで一気に……とか思ったけどそれはそれで違うのかな」
御影は頷いたが、ふとスマホを見ると驚いた顔をした。
「……御影先輩?」
「実はさっきのは地元のオカルト掲示板だったんだけど……新しく一つ立ってた、項目が」
どれどれと鉄平が見る。
そこには
「迷路屋敷メイズに幽霊がいる!新心霊スポット」
と書いてあったのだ。
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