第7話 迷路の中で怒鳴る男
「かと言ってどうやって幽霊たちを……」
あれから鉄平はそのことを考えつつも業務をしていた。締めの点検の際はまだまだ幽霊におちょくられっぱなしである。今は入り口付近にポスターを貼っている。平日のため一人。
そこに若者たちがやってきた。少し困った顔をしている。
何かあったのか、しまったモニターの前には誰もいない、と鉄平はしまったという顔をする。
「どうかされましたか?」
「中で変な人が大きな声ですごく怒鳴ってるよ」
ゴールからも泣く子供を抱きかかえた親子連れも出てきた。
「大丈夫よーよしよしー」
子供はすごく泣いている。鉄平は近くにいた清掃員に受付を任せて中に入る。確かに何か怒鳴るような男の声が屋敷の中に響く。一応防音のため中に入ってからようやく聞こえる。しかしまたこの声はうるさい。喧嘩をしているのか?一方的にこの男の声だけしか聞こえないため鉄平はヒヤヒヤする。
怒鳴られている相手は怖くないだろうか、自分で太刀打ちできる相手なのだろうか。
途中途中客とすれ違う。すれ違いざまに鉄平をスタッフと気づいた人は「危ない人がいる」「怖い」という人がいて、鉄平は最短ルートを教えたり、安心させるような声がけをする。狭い迷路、暗闇に近い、行き止まりも多い。平日ながらも来た客たちはとても恐ろしく感じるだろう。
もしこれが土日祝日であったら客たちはパニックを起こすだろう。
ようやく迷路真ん中あたりにくると一組のカップルが鉄平に気づいて手招きする。怒鳴る男の声が近づいてくる。
カップルの男の方が小声で言う。
「スタッフさん! ちょっときてください」
鉄平が向かうと中間の少し広くなった分岐点のところに全身黒のスーツの男の背中が見えた。
「ええかげんにせぇ! お前のせいでスタッフさんきてしまったやろ!」
「す、す、す、すいません……」
黒スーツの男は右中指で振り向いてサングラスをくいっと直して鉄平を見た。
「すいませんなー、ちょっとやつが俺のことちょろまかせやがって……説教してやったところや」
黒スーツの男はニヤッと笑う足元には一人の中年の男性が縮こまって床にひれ伏せている。
「でもその人は……」
「まぁええわ、すまん」
と黒スーツの男は奥に進んでいった。鉄平は縮こまった中年男性の元に駆け寄る。
「大丈夫ですか? もうこんなに縮こまって……」
「ありがとう……助けてくれて」
中年男性は微笑んで目の前から消えた。鉄平はハッとした。
そう、今の中年男性はいつも鉄平の締めの点検の際に現れるあの幽霊。
「おっさん……」
どうやら中年男性は成仏したようだ。
「さっきの男の人は……おっさんをみえたのか」
鉄平は心臓の鼓動が高まっているのに気づく。
「スタッフさん、ナニさっきから独り言言ってんだよ。さっきの男みたいに」
「えっ……!」
しまったか、と鉄平は気付く。自分とあの男にはみえたものは他の人には見えないものであったことを。
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