第6話 みえる2人

 御影がまたバイトに復帰して数日経った。この日はなんだか賑わっている。

 これともなく賑わっている。一応土曜日でもあるが、普通の土曜日のはずだが忙しい。

 受付も男鹿、御影、鉄平、松島がフルででて対応している。


「どうやらあの番組の再放送かあったみたい」

 松島がにこやかに鉄平に話す。

「あの番組?」

 鉄平にはわかっていない。すると汗を拭いて事務室にやってきた男鹿が冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出してぐいっと飲んだ。


「あの番組、再放送の効果もあるんだなー。社長も喜ぶぞ」

「だからあの番組ってなんですか?」

 男鹿まであの番組とか言うもので、鉄平は困惑する。


「あら鉄平くんは知らない?」

「知りません……」

「バイト始まる前に見なかったかしら」

「だから何を?」

 男鹿がノートパソコンを持ってきて鉄平の前に置いた。YouTubeの画面で、見覚えのあるメイズの外観が映った?


「そいや見せてなかったかもなー」

「これなんすか」

「とりあえず休憩お前今から入れ。休憩中には終わるから」

「え、まだあと30分あるんですけどー!」

 鉄平を置いて松島、男鹿は外に出て行ってしまった。


 やれやれと鉄平は冷蔵庫から弁当を取り出して少し早めの昼休憩をとりながらYouTubeをみた。


 それは人気番組「三日間」。とある場所の三日間を観察するドキュメンタリー。

 このメイズは鉄平の入る前に取材を受けていてこの番組で密着されていたのだ。


「へー、これで密着されてたんだ……知らなかった」

 弁当の焼きそばをすすりながら見覚えのある迷路屋敷の外観や中、それを楽しむお客さんたちが映し出されている。


 常連の人、こどもたち、カップル、学生たち、1人で来る人たち、様々。

 自分も毎日のようにこの光景を眺めているようだが番組の取材ディレクターがインタビューをしている。

 いつもは外面しか鉄平にはわからないお客さんたちの事情やメイズに来る動機などが次々と出てきて感嘆するばかりであった。

「なんでこれ見せてくれなかったんだろ。御影先輩だって……教えてくれなかった」

 少し不貞腐れながらも番組は30分、終盤に差し掛かった。


 すると従業員の1人として御影が映ったのだ。その瞬間、鉄平はおかずを吹き出した。

「御影先輩!」

 テレビの中の御影は相変わらずとても溌剌で笑顔輝いていた。


『私はここに来る皆さまの思い出の手助けになれるよう努めております』

 彼女の笑顔と共にエンドロール。


『それぞれいろんな気持ち、目的で来ていると思います。ゴールした時にどのような気持ちで出てくるか……怖かった、楽しかった、つまらなかった……色々あるだろうけどもそれはそれでいいと思います。後になっていい思い出になってくれれば』

「御影先輩、いいこと言うなぁ……んん?」

 鉄平は画面を凝視した。御影が話している場所はゴール付近。鉄平にはみえた。

 いつも締め作業の時に悪さをする幽霊たちが御影の後ろでピースしている。そして彼女も気づいたのかふとみて、見なかったふりしてインタビューを受けている。

 幽霊たちはさらにふざけ出し後ろで暴れている。

「あああー……嫌なもん見ちまったわ」

 もちろん鉄平以外にはこの様子は見えないだろうがみえる人にはみえたかもしれない。


「見終わった? 鉄平くん」

「御影先輩!」

 気づくと御影がそばにいた。彼女は恥ずかしそうな顔をしている。


「松島さんが鉄平くんが先に休憩入ってあの番組見てるとか言ってたから……」

「すいません、先に休憩いただいていました。で……これも見てました」

「見ちゃったかー」

「先輩、映ってましたね」

 御影はニコッと笑った、照れ臭そうに。だが流石に後ろの幽霊たちのことは言えなかった鉄平。


「恥ずかしいから鉄平には見られたくなかったけどー」

「いいこと言ってたと思います」

「ありがとう」

 2人きりはよくあるが鉄平はいつもよりもドキドキしている。


「でもさ、後ろの幽霊……」

「はい、たくさんいましたね」

「それもあって見たくなかったんだよねー」

「ですよね……」

 御影はお茶を飲む。ふーと息を吐いたかと思ったら鉄平の手をガシッと握った。

「ま、御影先輩?!」

「あの幽霊たちもあのメイズのなかでゴールを見つけられないまま彷徨ってるのよ」

「は、はい……」

「わたしたちであの幽霊たちをゴールさせましょう」

 ゴール、つまり成仏。だが鉄平はみえるだけでどうすることもできない。

 だがここのスタッフでみえるのは御影と鉄平だけである。


 ガシッと手を掴まれて尚且つ御影の服から谷間が見える。

「せ、先輩!!! は、はい!!!」

 と鉄平が答えた瞬間、事務室のドアが勢いよく開いたため、御影と鉄平は離れた。


「鉄平、いい加減見終わったか? 今度は俺休憩……ん?」

 2人がもぞもぞしてるのをみて男鹿は

「すまん、お取り込み中だったか」

「いえ、そんなんじゃないです」

 鉄平が慌てると


「……そんなんじゃなかったらなんなのよ」

 御影が鉄平をニヤッと冷やかす。

「あ、そのぉ」

「おい、なんなんだ? あそびか? 御影ちゃんを弄ぶいけない男だったか?」

「違います、男鹿さん! あ、御影先輩ー!待ってくださいよー!」


 男鹿にも冷やかされてタジタジな鉄平であった。

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