(四)-2(了)

 なんとか正気を取り戻そうと、いつもしているような動作をするために、カップの取っ手に指を回し、カップを持ち上げて口元へ運んだ。そしてカップを傾けて黒い液体を口に流し込んだ。それはすっかり冷めていた。しかし、何も考えられなくて、知っているはずのその味もどういうものだったか、まったくわからなかった。

「ねぇ……、あたし……、どうしたらいいと思う?」

 美咲は途切れ途切れにそう言った後、両手で顔を押さえた。彼女の手の平から、粒の大きな水滴が何滴も何滴も、溢れては落ち、溢れては落ちた。

 スティックの窓から見える一筋の赤い線という現実を目の前にして、俺は、何も言えなかった。結局、何も……。


(了)

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スティックとカップ 筑紫榛名@12/1文学フリマ東京え-36 @HarunaTsukushi

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