第136話 聖女って?
「部屋に行ったのは、私じゃなくてシノンなの。私は意識だけはあるけど、身体をシノンに乗っ取られてたから。でも、彼女は護道君が私の身体に触れないように配慮してくれてた。」(紫苑)
早乙女はなんて言ったらよいのか、言葉が出ない。
「・・・・・・てんてん」(早乙女)
ユミは眉毛を上げて早乙女を見たが、思案顔を崩さない。
「・・・・・・そうなんだ、それで?」(ユミ)
「シノンが何かを言葉にしたのね。すると、護道君は一人でベッドの中に入って行ったの。それから、私、つまりシノンはシャワーを浴びたのね。そして、そこから出たら、藤堂君が居たの。なぜ入って来れたのか、今から思えば不思議なんだけど、シノンはそれを待ってたみたいなの。女の子でしょ、シノンも。だから会う前にシャワーをしてたんだと、女の直感で思ったのを覚えてるわ。そうそう、シャワーを浴びながら、シノンは歌を歌ってたわ。殆ど覚えてないけど、子守歌の様な、優しい感じの、それでいて哀しい感じの、そんな歌。その時、シノンの哀しい思い出が私の心に流れて来たわ。彼女も私も悲しくなって涙を流してて、そしてシャワーでそんな涙も洗い流しながら、気持ちを落ち着かせて、さっぱりさせてからそこを出たのね」
そう言う紫苑をじっと見つめるユミと早乙女。
紫苑はここで言葉を切り、少しお茶を啜りながら、藤堂との会話を思い出そうとしていた。
「そのユニットバスのある部屋から出て、藤堂君と、なんか喋ってたんだけど、う~んと、ごめんなさい、それがどう言う事だったのか、あまり思い出せないのよ。でもね、勇者は藤堂君ではないって事だけは言ってたと思うの。そこだけは覚えてるわ。シノンはそれがとても
「「えっ!!」」
ここで勇者というワードが出たことに驚く二人は、お互いを見つめ合う。
「香織?あなた、紫苑に勇者の話をした?」
「どうだったっけ?アレでしょ、あの時、ついカズトの話の勢いに負けて、勇者だってことにしちゃったアレでしょ?」
「そう、重要な事だから訊いてるんだけど」
「なになに?勇者って、何のこと?」(紫苑)
「あっ、えっと、うふふふふ、カズトがね、自分は勇者だって言うのよ。うふふふふ、でね、私達は聖女な訳、うふふふふ」(早乙女)
「つまりは、紫苑は、勇者が藤堂とかっていうのは、初耳だって言う事?」(ユミ)
「えっと、初耳とかじゃないわ」(紫苑)
「「えっ?」」
「私が、映画『君の名前は?』が好きな理由の一つに、異世界モノが好きっていうのがあるのよね。それはむっちゃんの影響なの。彼は小さい頃に、勇者ごっこをしてたのね、私が聖女で。だから、わたし、彼が今でも勇者だってあなた達に言ったの、ちょっとわかるのよ」
「ちょっと紫苑、あなた、シレっと気になることを言ったわね」(早乙女)
「そうそう」(ユミ)
「紫苑、あなた、聖女の役だったの?」(早乙女)
「そっち?」(ユミ)
「聖女の役だけど、面白いのよ。勇者よりも大切な存在って言うか、勇者はただ戦うだけでしょ、でもね、戦い傷ついた勇者や兵士を癒し助けるのは聖女のチカラなわけ。それに、勇者が危ない時に助けるのも聖女なのよ。だから、私が居ないと、むっちゃんは勝てないのね。うふふふ、だからわたし、小学校高学年ごろからラノベを読む様になったり、異世界モノのゲームや乙女ゲーをするようになったのは、小さい頃の彼とのごっこ遊びが原因だったと思うの」
「聖女って、カッコイイのね」(早乙女)
「ふぅ~~ん、聖女ね~。まあ、そこはいいわ。それより、何で藤堂が勇者だと言う理由がわかるの?」
「うふふ、それはね、う~~ん、言うのが恥ずかしいんだけど、言うね。『勇者は愛する者を死んでも守る、だから僕は聖女紫苑を守る』、そう言うのが決まり文句で、そう言って魔王に最後の戦いを挑むの、うふふふふ」
紫苑は顔を真っ赤にして、ニヤケ顔で夢見る乙女な目つきになっていた。
「ナニ?ノロケ?」(ユミ)
「ちょっと、心が異世界に飛んでるよ、紫苑?」(早乙女)
「・・あっ、そうなの、勇者だって藤堂君があなた達に言ったってことは、君達を守ってやるって言う事と同じで、それはあなた達を愛してるって事なの、残念だけど」
「ちょっと、聞こえたよ、心の声が」(早乙女)
「えへへ、バレた?私のことは良いから、むっちゃんをよろしくね。彼は、絶対にあなた達を裏切らないから」(紫苑)
「バカね!紫苑、あんた、バカだよ!」(早乙女)
「聖女!紫苑、あなたも聖女だって藤堂が言ってたのよ」(ユミ)
「えっ?どうして?わたし、彼に酷い事をしてるのに?それに、私には彼の側に居る資格が無いわ」(紫苑)
「だから、護道の事にケリをつけるのよ!もう、ネタは挙がってるんだからね。それに、妹ちゃんはフジグループが面倒を見るんだから、護道とはもう関係ないからね」(ユミ)
「そうよ、紫苑!頑張って!あなたも聖女なんだから」(早乙女)
こうして、3人は女子会を終了したのだった。
そして、護道が学校へあいさつに来た時、紫苑は、婚約解消を直接護道に、クラスのみんなの前で言う事が出来たのだった。
藤堂がいそいそと元田辺中野球部のメンバーに会いに行った時に、早乙女達3人は揃って下校し、再び女子会を開いた。
「弥生さん、すいません、ご面倒をおかけして」(早乙女)
「ホントに良いんですか、弥生さん?」(紫苑)
「いいのよ、香織さん、紫苑さん」(弥生)
「弥生、あなたを同席させたのは、あなたにも聞いて欲しいからよ。紫苑のいろいろをね。そうでないと、妹ちゃんとのこともあるし、もう乗りかかった船で、紫苑もちゃんとウチでケアーしてあげないとね」(ユミ)
「わかっております、お嬢様。微力ながら、この弥生、誠心誠意、頑張らせて頂きます」
新たな女子会がスタートした。
※作者の呟き
遂に長かった女子会が終わり、次も女子会?
なげーよw
ふふふ、さあ、その女子会とは?そして、次で一部がやっと?
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