第133話 エンジェル

「わたし、まだまだ先の話かなって思ってたのね。でも、急遽、先方から催促の電話があって、決めなくちゃダメだって事になって。私のお父さんは、ゴッドカンパニーの子会社で働いてて、そこの会社の社長さんからも婚約しろってプレッシャーがキツかったの。でも、私の我がままで、先延ばしになってたのね。それが先方の急な都合で、でもね、お父さんは、イヤなら断っても良いんだぞって言ってくれたのよ。だからわたし、涙が出ちゃって、OKしたの。そんなお父さんにも、妹にも迷惑掛けたくないから」


「そうだったの。ごめんね、ツラい事訊いて」

 そう言って、早乙女は紫苑を抱きしめた。


「ちょっと引っ掛かるわね。急に向こうが言ってきたのよね。そして、その後で直ぐにみんなの前で護道が告白って、ウラが読めて来たんじゃない?」(ユミ)

「えっ?どういうこと?」(紫苑)


「だって、あの護道よ!みんなの前で恥をかくような事をする?それにタイミングが良すぎるわ。私はフジグループの娘よ。ゴッドとは敵対関係なの。だから、いろいろと情報を持ってるワケ。そして、ついでに言うと、護道の化けの皮を剝がすためにこの高校へやって来たのよ」


「えっ、そんなことで高校を決めるの?」(紫苑)


「紫苑、あなたのような庶民にはわからないかもだけど、ゴッドのしっぽを掴むためには案外、その家の子供のことを調べた方が近道の事もあるの」

「えっ、なんか、すごい」(紫苑)

「ユミ、庶民とか言わないでよね。でも、カズトは貴女の事をどこまで知ってるの?」(早乙女)


「この高校へ来た理由は、藤堂には言ってあるから。幸か不幸か、あなた達がホテルまで連れて行かれたので、いろいろと調べることも出来たわ。ところで、護道って、中学生になってから急に顔がイケメン風になったでしょ?何でかわかる?」


「うーん、それは男の子の身体が大人になって来て、顔も男らしい感じって言うか、大人的な成長をしたと言うか、ね?」(早乙女)

「うん、そんな感じで、男の子って中学生になると成長が速くなって、私達女の子を追い抜いちゃうって感じじゃない」(紫苑)


「ふぅ~~~、君たち、観察力が足りないな。紫苑なんか、身長とかの話じゃない?」

 そう言うとユミはデザートアイスを平らげて、ブルーベリーをつつきながら、どこまで話そうかと少し思案した。


「ユミ、あなた、ぶっちゃけるのに勿体ぶらないの!そういうところ、カズトに嫌われるぞ!」(早乙女)


「えっ、そんなつもりじゃなかったんだけど。あのね、アレはね、一種の整形よ。でね、その整形の仕方はメスを使わない健美整形ってことで、今、セレブの間で人気になってるものなの」

「ええっ!でも、整形なのね?」(早乙女)

「なんか、別に急に顔が変わったって感じでもなくて、いつの間にかカッコ良くなってたって思うんだけど」(紫苑)


「そう、それが健美整形のやり方よ。徐々に整形されて行くみたいな」

「セレブの話は、なんかスゴイわね」(早乙女)

「だから、徐々にってのは、整形に時間がかかるので、その分、たんまりとお金をもらえるわけよ。もちろん、一括払い形式もあるけど、来院時に払う料金もあるわけ。そして、オカシイのが全てが健美整形ではないのよ。ってか、メスを入れないとかってのも、半分ウソだよ。時間的に無理とか、人によってはメスを入れちゃうんだ、うまい事言ってね」

「えっ、それって、詐欺じゃない?」(紫苑)


「それがね、契約時にいろいろと細かく書かれてて、場合によってはメスの使用も仕様が無いこともあるのでご了承くださいっていう但し書きが小さい文字で書いてあるわけなの」

「みんな、全部読まないで読んだ事にしてサインするわけね」(紫苑)


「そう、そして、会社名はエンジェルコーポレーション。一応、病院の体裁をとってる医療法人社団でもあるんだけど、それだけじゃないのよね。ゴッドとは関係無い事になってるんだけど、私達の調べではゴッドの100%子会社。因みに、この会社が名前を少し変えてゴッドグループを引き継ぐらしいわ。で、この会社の怪しげな病院は何軒かリストアップされてたんだけど、ちゃんとわかったのは藤堂が護道を病院送りしたからよ。藤堂が弥生さんに連絡をして、護道の入院先を調べたのね。それで彼が引き金となって、後は芋づる式にって感じでこの会社のヤバい話がたくさん出て来たわ。護道が入院した所にだけラボがあって、そこでいろいろと研究してるのよ。でも、その病院の件、そしてエンジェルの件はウヤムヤにされて、ゴッドグループを救う形で世間に登場してくるって筋書きらしいわ。これ、政界絡みなんだって」


「そうなんだ。だから、ウチのお父さん、会社が変わるかもとか言ってたのね。なんか、全然違う職種で、どっかの地方に栄転という形にして飛ばされるとか言ってた」(紫苑)


「そうなの。お父さんも大変ね」(ユミ)


 何やら難しい話になったが、護道剛三、この男、もともとゴリラのような顔で登場したのだが、ゴリラもちょっと弄ると男前になるって、なんかわかる気がする紫苑と早乙女だった。


 この時、またしても無言で、一口アイスの入っていた、大きめのクープタイプって言う、ボウル部分が低い平型シャンパングラスが取り除かれ、代わりに赤色をしたスムージーが入っているフルートタイプの細いシャンパングラスがサーブされた。


 一緒に横に置かれたストローを取り出し、3人とも口をつけて飲む。


「これ、ストロベリー味だと思ったら、柑橘系?」(早乙女)

「ピンクグレープフルーツかな?」(紫苑)

「そのようね。珍しいわね、これを出すなんて」(ユミ)


 子分は、3人の言葉を頷いて聞いてから、緑茶の湯飲みを3人の前に置き、その場から消えた。


「さあ、本題に戻るね。紫苑、あなた、結局どうなのよ?あなたの正直な想いを聞かせてほしいの?どういう想いで、ホテルの一室へ行ったの?」(ユミ)


「わたし・・ごめんなさい。これから話すことは、信じてもらえないかもだけど、でも、ちゃんと話すわ」

 そう言って、緑茶を飲みながら、紫苑は悲しい顔をしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る