第131話 スキンヘッド

 LHRの時間になった。

 始業ギリギリで教室に入ると、みんながザワついていた。

 教壇に上がる副担任の横に、スキンヘッドの生徒が一人居た。


「みんな、静かに!これよりホームルームを始める。まず初めに、残念な話をしなければならない。ここに居る護道だが(護道かい!byカズト)、家の都合でアメリカへ留学することになった。護道から、別れの挨拶だ」


「みんな、突然で申し訳ない。ニュースでも知ってるとは思うけど、会社の事情で今後はアメリカを第二の故郷とすることになった。明日、渡米する。みんなには仲良くしてもらったし、クラスの副委員長としてやり残したことはあるけど、事情が事情だし、勘弁してくれ。それから、藤堂!いろいろとあったけど、君とは良いライバルだった。藤堂については誤解が誤解を生んで、彼も心を頑なにしてしまったかもしれないけど、そのようになったこと、ホントに申し訳なかった。オレは、君の頭脳と運動神経には敵わないと、ここに敗北を認めるよ」


 そう言って殊勝な感じの護道をオレは見ているのだが、スキンヘッドが気になって目がそっちに行き、ヤツの言葉が頭に入って来ない。

 だが、しかし、敗北を認めるだと!


「ちょっと良いですか、先生!」

「なんだ、藤堂?」

「いや、先ずはその敗北の件ですが、負ければ」

「すまんな、藤堂!個人的な事は二人で話し合ってくれ。今は、護道の話を聞いてやってくれないか?彼のたっての願いであり、これが最後の別れとなるかもしれないからな」

 ちっ、この副担任では事の経緯を詳しくは知ってないだろうが、それでも。


「・・はい、もちろん、そうです。でも、ここで明らかにしておきたいことがあるんです!例えば、写真のこと」


「藤堂、写真の件は確かにオレの誤解だった。みんなにもガセを見せてしまい、申し訳なかった。しかし、お前が芸能人のようにイケメンだからだぜ、間違えたのは(^_-)-☆」


 ざわざわと、クラスメイト達がしゃべりだした。


「えー、だったら藤堂のウワサってのはガセなのか?」

「そうみたい」

「なんだ、オカシイと思ってたんだ」

「そうね」

「藤堂は悪くない」

「しかし、護道の言うように藤堂がカッコ良すぎるんだよな」

「まあ、たしかに」

「それはある」


「モテない男子のヤッカミ!」

「なに、女子はイケメンが好きなんだろ、どうせ!」

「そりゃー、顔面偏差値はお高い方が癒しになるし」

「けっ、イヤシー考え」

「オヤジギャグ、だっさ!」


 ここで、あろうことかダジャレ的な発言がモテない君達から。

「イケメンでごめん」

「イケメン、めんどう」

「イケメン、にくめん」

「肉ラーメン好きだぞ!」

 あははははって、みんな笑ってる。


 みんな、そんなつまらんダジャレで笑って終わりにするのか?

 しかも、それに何だよ、肉ラーメンってあるのか?(*筆者㊟それがあるんですwもちろん、美味しいです!)

 そして、許せねーのは、その護道の変なウインクで終わりにするってことか?


「みんな、静かに!護道の話はまだ終わってないぞ!」


「藤堂!オレは最初から君の事を認めていたんだ。でも君と戦わずに君の事を簡単に認めるなんて、男じゃないだろ?それにオレは将来、ゴッドを背負って立つ男になるんだからな」

 そういうスキンヘッドには、後光が差している気がしないでもなかった。


「藤堂、罪滅ぼしってわけじゃないけど、オレの後任になってくれるよな!」

「えっ??」(オレ)

 誰かが拍手をした。

 誰?

 すると、それに呼応した感じで拍手の波がやってきた。


 はあ?

 いや、そんなのでやりたくねーし!

 まるで、護道が良い人って感じじゃね、これ?


「どうだ?早乙女も委員長の立場として、意見を言ってくれ!」(護道)

「私は、カズトがやってくれるんだったら大歓迎よ」


「決まりだな、藤堂、良かったな!これでオレも思い残すことは無い」

 誰かが拍手をした。

 それに釣られるように、また拍手の波が教室内に沸き起こった。


 みんなが笑顔でオレを見てやがる。

 はあ?

 みんな、オレの事を?


 ユミも、早乙女も笑顔でオレを見て、拍手している。

 こいつ等、どういうつもりなんだ?

 所詮は他人事か。

 護道、おまえ、やっぱ食わせモノだ!

 っていうか、シノン!

 あのヤロウ、いや、あのオンナ、約束したよな、謝罪させるって!

 それに、なんで、護道がエラそうな感じで、良い人になってる?


「じゃあ、やってくれるよな、藤堂!オレ、丸坊主になって頼んでるんだぜ。まあ、向こうに行ってナメられないようにってのもあるけどな(笑)」

 いや、おまえ、(笑)って、スキンヘッドは、つまるところ外人にナメられないようにって話だろ、それ!

 坊主にしたら謝罪したことになるって、誰が決めた?


「みんながホントに」(オレ)

「はい、ちょっとごめんなさい!」

 ここで白藤さん(紫苑)が割り込んできた。

 いいぞ、白藤さん、言ってやれ!


「わたし、みんなの前で護道君の告白をOKしたわよね。だったらここではっきりさせておくわ。護道君と私は、もう何の関係もないからね!」

 そっちか!って、白藤さん、爆弾投げました!


「えっ、紫苑、君とオレとは婚」(護道)

「いい?護道君!あなたは私に何の説明も無くアメリカへ行くって決めたのよね。連絡くらいあってもしかるべきよね?違うかな?」

「いや、連絡しようとしたんだ。でも、通じなかったし」

「こんな重大なことを決めてるのに?だったら私の家まで来るべきよね。だって、あのとき、私の家まで来たわけでしょ、ご両親と一緒に。だったら、私の両親にも挨拶すべきでしょ?」

「それは・・・・(汗)」


「君達、そういうプライベートなことは」(副担任)

「先生は黙って!」(紫苑)

「そうよそうよ、先生は黙っててください!これは女の子の一生の問題なんだから!」(早乙女)


「そ・・そうなのか・・(汗)」(副担任)

「そうです!先生、女子の気持ちをもっと考えてください!」(ユミ)


 なんか、聖女3人、連携が取れてるな。

 ユミは紫苑のことが嫌いなわけじゃなくなったのかな?


「いい?護道君にはお世話になって感謝してるわ。でもね、やっぱり妹の事で恩を売って婚約しようなんて、そんなの、おかしいよ。賢い護道君ならわかるハズよね。愛っていうのは、そんな姑息な手段で手に入れられはしないってことを。そして、今回の件で、はっきりしたわ。護道君、あなたは自分の事しか見てないのよ。他人の気持ちがわかってない。そんな人に愛があるとは思えないの。最初から断れなかった私にも非があるのは認めるわ。あの時は切羽詰まってて。でもね、もう終わりにしましょう」


「・・そうか、そうだよな。紫苑、悪かったよ。君にそんなに心の負担を強いてたなんて思わなかった。ごめん、婚約は解消するよ。でも、君を好きなのは真実だ!アメリカでビッグになって、もう一度オレに振り向かせてやるから!それまで待っててくれ!」


 みんなは、これらのやり取りを静かに見守っている。

 中には、ニヤけてるのも居るが。

 だがしかし、オレは!


「ごど」(オレ)

「護道君、残念だけど、待てないわ。わたし、ある人と結婚するから」(紫苑)


「「なに!」」(オレ&護道)


「「いったい誰だ?」」(オレ&護道)


「教えない!」(紫苑)


 再びざわつく教室。


「みんな静かに!もうそれくらいで良いだろう?護道、向こうでは頑張れよ!よし、じゃあ、みんな、拍手!」(副担任)

 パチパチパチパチ・・・・。

 こうして護道は教室を出て行った。


「藤堂、これからは副委員長だな。よろしくやってくれよ」

「は、はい」

 パチパチパチパチ・・・・。


「やっとクラスが一つになったって感じ!」

「護道、最後に良い置き土産を置いてきやがったぜ!」

「良かった、良かった!」


 その後はちょっとした注意事項で終わった。


 オレは紫苑が教えないってヤツを問い質したい衝動を抑えながら、直ぐに教室を出て行き、元田辺中野球部の待つ場所へと行こうと階下へ降りた。

 すると、そこには護道たちが居た。

 子分を連れて来ていた。

 3人とも護道同様にスキンヘッドだ。

 ちょっと身構えたが、オレに謝罪してきた。

 ああ、あの件か?


「藤堂、すまないな。こいつ等、オレの事を忖度したようで酷い事をしちまって」

「ああ、もう良いから」

「藤堂、紫苑をよろしく頼む。どうせ、お前の事が好きなんだろ、紫苑は」

「おまえ、どうして?」

「オレはずっと紫苑を見てたからわかるんだ。紫苑を泣かせるんじゃねーぞ!それと、なんか、お前にずっと酷い事をしてたみたいで、すまなかった」

「ずっとって?」

「よくわからんが、ずっとだよ!とにかくごめんな!じゃあ、行くわ!」

「おお、元気でな」

「こっちに帰ったら、紫苑とのことを聞かせてくれよ!遊びとかで付き合うんじゃねーぞ!じゃあな!」


 護道の記憶、オレとベッドの上で言いあった事とか忘れているようだな。

 それに紫苑とホテルに行ったことも。

 シノン、一応は約束を果たしたって事か。

 護道なりの謝罪の仕方だったけどな。

 しかし、どこまで、あのシノンって魔女は記憶とかを操れるんだ?

 オレは、そんな魔女と対決できるんだろうか?

 ちょっと不気味に思ったが、シノンはオレの事を勇者じゃないって言ってたから、対決なんかしないだろうと考えるのをやめた。


 オレは、部活動のことでどう話をしようかと、頭を切り替えながら集合場所へと急いだのだった。

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