第124話 アニメ②

 ◇

 以下、アニメの話。


 勇者パーティーは、遂に魔王の前に立ちはだかった。

 どちらも、体力、魔力を消耗しながらの対峙。

「おい、魔王!ここからは、オレ達だけの戦いで決着をつけようぜ!」

「魔王様、人間達の言う事を聞いてはなりません!」

 こう進言したのは、大魔導士のじじい。


 魔王は、魔族達の様子をぐるりと見まわす。

 頭から血を流しているモノ、びっこを引いているモノ、片腕となるも戦っているモノ、みな、どこかしら傷を負っていた。


 次期魔王として育てているシン(真一)は肩で息をしており、その義兄は、片腕を負傷したシンの姉を庇うように血だらけの顔を勇者達に向けている。


 ――――潮時かもしれぬな。


 魔王は、じじいの若い頃の苦い思い出が故の発言だと思い、じじいの言葉をそのままには受けとめなかった。


 さて、勇者達もまた、味方は数で3倍もの軍勢が三分の一に減り、個々の戦闘では互角以上のチカラを出す魔族達に苦戦を強いられていた。


 しかし、勇者シンは、あくまでも居丈高な態度で交渉する。

「魔王!このままでは、お互い、ただ数を減らすだけの消耗戦だ。そうして勝っても、魔族も人間族も、他の種族の餌食となろう。我らの戦いを固唾をのんで見守るドラゴン族、エルフ族、ドワーフ族、鳥人族などの輩が、この後、黙って見ている訳が無い事ぐらい、承知しているはずだ!違うか?」


「おまえ、勇者シンとか言ったか?だったら、尚の事、なぜ我らと戦う。我らは話せば聞く耳を持つ。それを一方的に!」


「違う!それはお前たちが先に我々の同胞を殺めたせいだ!だが、もうここに至っては、そのような事を言い争っても無駄だ。どうだ、我々の提案を飲むのか、飲まないのか?」


「勝ったら何かくれるのか?」

「この戦いは和平のための戦い。負けた場合は、勝った方からの条件を一つだけ飲む。もちろん、常識的な条件で折り合おうぜ。そして、お互い、命までは取らぬように、その辺を考慮して禍根を残さぬようにすること、それで良いか?」

「かまわん」

「では、その言質だけでは心もとないので、お互いに人質を差し出そうぜ!」


 こうして、魔族からはシン(真一)が、そして、人間族からは一人の王女が人質となった。

 勇者パーティーからは、シン(シンジ)とケン(ケンジ)とユリア(ユカリ)。

 魔族からは、魔王とシンの義兄と姉。


 戦いが始まる。

 双方、互角の戦いで、有効な攻撃が入らない状態が続く。


 その状態を見ながら、シン(真一)は、隣りに居るシオンに話しかける。

「君、この前、森で会ったよね。覚えてないかい?」

「えっ?さあ、どうだったかしら?」

「君の名前を訊いても良いかい?」

「わたし?わたしの名前は、シオーネよ」

「シオーネ?」

「あなたの名前は?」

「オレは、シンだ。昔は、真一と言った」

「へーー、シンって、勇者シンと同じ名前ね」


 その時だった。

「ぐああああああ!何を??!!」

 魔王が剣で背後から貫かれていた。

 それも、二本の剣で。


「にいさん、ねえさん、何で?えっ?ううううううう!くっそーーー!!」

 シン(真一)に拘束魔法が掛かる。


「おのれーー!シン、逃げよ!!!あぐっ!!」

 魔王が最後の魔力を振り絞り、シン(真一)に掛けられた拘束魔法を打ち破った。

 しかし、その瞬間、魔王の首は勇者シンの聖剣により落とされてしまった。


 シンは、レイピアで突いてきたアイリ(アカリ)とシオンの剣筋から逃れると、逆にシオンとアイリのレイピアを持つ手に手刀を入れて、手に持つレイピアを地面に落とさせた。

 そして、シンは、すぐさまレイピアを拾うと、シオンの首筋にそれを当てがった。


「動くとコイツの命は無いぞ!」

 しかし、勇者シンは、ゆっくりと近づいて来る。

「無駄な抵抗だ。もう魔王は死んだ。そんな事をしても何にもならんぞ」

「勇者、おまえ、姉達に何をした?」

「うん?なにも?アイツ等、オレの部下だし」

「はあ?どういうことだ?」

「魔族って、バカばっかりだな!さあ、シオンを開放しろ!命だけは助けてやるから」


「シオーネ、いやシオンか。あんた、あんな勇者を認めるのか?」

「魔族!あなた達は害悪なの!勇者シンは、正しい事をしてるのよ!」


「そうか、シオン!だったら死ね!」

「やめろ、おまえ!うおっ!!何を?」(勇者シン)


 じじいの魔法が勇者シンのシールドを砕く。

「シン、今じゃ!」(じじい)


「死ね、勇者!」

 勇者に衝撃波を放つ!

「死ね、シオン!」

 シオンの首筋にレイピアを突き刺そうとした瞬間、シン(真一)は、シオンの顔を見てしまった。

 恐怖で、目を大きく開き、驚愕した顔を!


 その時、シン(真一)の脳裏にあの事故でのシオリの顔が思い浮かんだ。

 ――――同じだ!あの時のシオリの顔と同じだ!まさか、君は?


 シンはそんなことを思い、動きが一瞬止まった!

 その隙をもう一人の勇者ケンが見逃すはずが無かった。


 ケンの投げた聖なる槍がシンを貫いた!

「ぐはぁーー!!」

 シン(真一)は、その身体が光の粒となって消えてしまった。


「「シンーーー!!」」

 大魔導士のじじいと、魔獣王の声が響くも、それは、これからの魔族の大虐殺の始まりを意味するものに過ぎないのだった。


 ◇


 アニメ「君の名前は?」の第一部が終了した。

 そのエンディングテーマが流れていても、大半の者達が席を立とうとはしていなかった。

 その音楽は、今流行っている歌手が歌う、評判の曲だったからだ。


 しかし、カズトと弥生さんは、直ぐに席を立ち、映画館を出た。


 外に出ると、朝方晴れていたはずの空は、雲が厚く覆い、これから雨でも降りそうな気配が感じられたのだった。


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