第123話 長いトイレ休憩

 休憩の為にスクリーン席の外に出て、トイレへと向かう道すがら、弥生さんと話すのだったが、弥生さんは、目を細めて言った。


「トイレ、行列が出来てるわね!外に出ましょう!」

 チケット確認ゲートを抜けた外トイレへと急ぎ足になる。


「いや、だから、弥生さん、オレの話、聞いてる?」

「もちろんです。知る権利でしたね?確かに、そのような権利の資格は十分にあります。しかし、まだ裏が取れてません。不確かな情報を教えることで、混乱を招くこともあります。モノには順序ってモノがあるのですよ、残念ながら。ですが、勇者であるカズきゅんには、わたくし、弥生が教えて差し上げます。でも、良いですか?教えるにあったっては、義務や責任というモノも生じるのですよ」


「わかってるよ、もうそんな覚悟は、勇者になった時から出来てるから!」


 弥生さんは、またしても、目をスッと細めるのだった!


「やられましたね。これは!」


 弥生さんの視線の先には、またしても女子トイレに並ぶ女の子の列があった。

 仕方なく、その列に一緒に並びながら、オレは、まだ弥生さんに食い下がる。


「護道のことから教えてもらおうか?」

「ふふふ、やはりというか、そう来ますよね、ふつう」

 オレは、少し、焦っていた。

 女子トイレに並ぶ列に一緒に居るのは、ちょっと女子達の視線がヤバいので。


「カズきゅんのお手柄です!あなたの予想通り、例の病院へと彼は運ばれて行きました。まあ、我々がマークしていた病院の一つではあったのですが、まさか堂々とその病棟のある一室で行われていたとは思いませんでした。正確には、病棟と棟伝いの一角で、厳重な出入りの管理がされている精神病棟の方だったのですがね」


 そこまで言うと、弥生さんは再び目を細めたのだった。


「と、藤堂君!こんなところで?」

「えっ?お、おう!」

 そこには、紫苑が居た。

 ちっ、アンテナを張ってなかったぜ。

 話に夢中で、焦り過ぎたからな。

 まさか、ここで出会うとは!


「そのひと、藤堂君の知り合いの方?」

「ああ、えっと、だよ」

「へーー、家庭教師のヒトと映画なんかに来るんだ」

「いや、その」


「お初にお目にかかります。の弥生と申します」

 弥生さんが、目が笑っていない笑顔で挨拶をした。

「はじめまして、にいつもお世話になってます、の白藤紫苑と申します」

「うふふふふ、お可愛い方ですね」

「ふふふ、いつもそう言われます」

「うふふふふ」

「ふふふふふ」


 おいおいおい、こいつ、ホントに紫苑なのか?

 幼馴染って、初めて口にしたし!

 ってか、かずちゃんとかも言うのかよ!

 バレてるのは知ってたけど、ホントにコイツの口から聞くとなると、ちょっと複雑だな。

 コイツの真意がわからん、もう護道にも隠し立てしてないのか、オレの事も?

 それとも、今のコイツ、紫苑じゃなく、魔女なのか?

 そして、オレの事を面白がってるのか?


「白藤さんもおトイレなのかしら?」

「そうです」

「あらあら、ご一緒ですね」

「そうですね」

「では、もう少し、の事をお聞かせくださってもよろしいですか?」

「!!ええ、の事、わたし、昔から知ってますので、何なりと訊いてください!」

「そういう事ですので、カズきゅん、コーラの大をひとつ、あっちで買って来てくださいませ」

 二人とも笑顔でオレを見る。

 二人とも、目が細くなっていて、鋭いのは気のせいなのか?

「はいよ、じゃあ、買ってきて、席に行ってるからね、白藤、それじゃーな」


 こうして、そこから脱出したオレは、元のシートに戻った。

 わからねーな。

 なぜ、オレの事を急に幼馴染のかずちゃん呼ばわりしてきた?

 クソッ!

 つまりは、護道はもうとっくに知ってるって考えた方が良いな。

 オレが、あの変態だってことを。


 そう思うと、オレは、吐き気が込み上げてきた。

 ヤバい、まだやはりオレって、こういう精神攻撃には弱いな。


 オレは、こみ上げてきたものを何とか我慢すると、コーラを飲んで、一息する。

 が、すぐにゲップがオレを襲う。


 コーラはダメだ。

 しくじった!


 こーら!コーラのヤロウ!!

 オレは、強く心の中で叫んだ!

 先ずは、怒りのホルモンであるノルアドレナリンの分泌を促し、PTSDの感情を消すこと。

 次には、その興奮作用を緩和させるべく、脇下やムネ、首筋へのマッサージだ!

 こうすることで、幸福物質のオキシトシンの分泌を促し、ノルアドレナリンの抑制が働く。

 って、こそばゆ~い!

 くくくくく!

 思わず、顔がほころぶ。

 オレ、脇下とか、ムネとか、首筋、弱いからな。


 これは、緊張した時とか、切羽詰まってる時に、強制的な笑いを誘発させる技で、そうすることにより、精神的安定を図り、尚且つ、何らかの解決法が浮かんでくるかもしれないお手軽メソッドだ。


 勇者の心得から学んだ。


 もう、PTSD、恐れるに足らず!!

 そう、オレは思った。


 よし、ここで冷静な思考をしていこう!


 紫苑がオレに対して、幼馴染という事をあからさまにしたこと。

 紫苑は、ここでは、まだ魔女なのか、本来の紫苑なのかははっきりしないので保留だが、護道にオレの過去が知れた可能性があるってこと。


 そして、早乙女、お前は大問題だ!

 なぜ、ソイツと居る?


 くくくく、こそばゆい!

 オレは、また落ち込みそうになったので、リラックスするためのマッサージをした。


 ほぉーーー!!

 そうか、昨日はそんな素振りも無かったことを考えると、急に誘われたか?

 そして、何らかの口実を使い、早乙女の博愛主義的、あるいは委員長的感情に訴えかけたって事だろうな。

 こいつ等は、聖女だ。

 そういう性格がみんなには確かにある・・まあ、ユミは理屈が先に出るタイプなのかもしれんが。


 早乙女は、そういう聖女的な感情が直ぐに出るタイプだ。

 自分よりも他人を優先する。

 気を使うタイプだからな。

 そこを上手く突いたのだろうよ。


 そんなにラブラブ感は無さそうだったからな。


 そうだよ、オレはもっと聖女達を信じないといけない。

 そんなことも、勇者として試されてるのかもな。


 ブザーが長く鳴り、そろそろ後編が始まろうとしていた。

 丁度、弥生さんが帰って来た。


「コーラ、ありがとうございます!」

「いや、それより、紫苑と何を?」


 弥生さんは、閉ざした唇の前に、人差し指を立てた。

「さあ、始まりますよ」(小声)


 またしても、何も聞かれず仕舞いか。

 だが、護道の事は、半分わかった。

 もう、それだけで十分だ。

 護道のヤツ、それと生徒会長のクソ野郎、映画の後で片を付けてやる!


 オレは、決意を新たに、スクリーンを見つめた。


 スクリーン上には、魔族と戦う勇者たちの姿があった。




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