第120話 闇鍋女子会③

「まずは、お前たち、ご苦労だったな。今回は、お前たちへの労いも兼ねた会なのだが、とりあえず、状況確認と現状把握を行う。まずは、お前たちとの勝負、それは引き分けとなった。お前たちも直ぐに気付いただろう?あのバカ魔王のヤツが、またしても先走って、やっちまったからな!」


 リーダーは、周りの女子達の顔を見回す。

 全員、口の端に付けていたタレや、肉の脂を拭い、今は肉を良く食べた効果なのか、唇も額も頬も色艶良く、潤い肌となっているような気がする。


 リーダーは、冷たいほうじ茶の入ったグラスに口をつけ、一呼吸置いた。


「だが、しかしだ!我らが派遣されたのは、このバカ魔王の尻拭いの為ではない!断じて、そうではないハズだ!だろ?」

「「「もちろんです!!!」」」


「だから、もう、この世界から撤退することにした。これは、もう決定事項だ。そして、向こうでは、既に次の器がお前たちに用意されている。それぞれに都合の良い身体のハズだ」


 そして、また、ほうじ茶をひと啜りする。


「だがしかし、だ!このままで良いのか?ええっ?」

 ゆっくりと、リーダーは、みんなの顔を見る。


 そして、意を決したように頷いた。


「うむ、そうであろうよ!向こうへ帰る日が近づいてはいるが、せめてその日までは自由にこの世界を楽しもうではないか?そのくらいは、このクソ任務についた私たちにも許されるだろうよ!どうだ?」


 皆は、口々に、リーダーの英断を称賛する。


「えっと、いろいろとやっちゃっても良いんだってこと、リーダー?」

「ああ」

「その、食べまくっちゃってもOKってことだな?アレも食べたいし、アレも!」

「ああ」

「うふふふふ!でしたら、少し、豪遊しようかしら?」


「ああ、最後のこの世界を堪能して帰れ。我がままは身体に毒って言葉がこの世界にはあるらしいからな。それに向こうへ帰ったら、すぐに制約に縛られるだろうし」


 他の3人は少し、暗い表情をする。


「だが、しかしだ!魔王のおりも一応しなくちゃいかん。あのバカのせいで、要らぬチカラを使うのは癪だが、そこは我々カルテットの名の為にも、バカ魔王がこの世界で面倒を起こさないようにしないといけない。それで、一人だけ残ってもらう。いいか、一人だけだぞ!それを今から決める」


 一瞬、皆の顔が強張った。


「お可哀想に。誰でしょうね、それは?」

 アイネのこめかみがピクピクする。


「ああ、まったくだな」

 デューレがコブシを握る。


「うぷぷぷぷ!バカなやつ!ワシではないぞ!」

 トレが頬を膨らませる。


「さて、この世界には闇鍋というモノがある。そこで、私が考案したルールで食べてもらう。スープは真っ黒だ。その中に餃子が入っている。全部で6個だ!当たりは1個。当たりをとった者が残る事。当たりは、餃子の中の餡が納豆だ!みんな、嫌いだろ、あのねばねばの食材だ」


「アレだけはダメだ!この世界の食文化をたたえはしたが、アレは無い!」

「死ねと言うのか!リーダー、ワシに死ねと言うのか?」

「まあまあ、当たりを引かなかったら良いのですから、ねえ、そうでしょう、シノン?」

「だから名前を言うな、アイネ!いいか、それから条件として、魔力を使って探ろうとするなよ!いいか、それは絶対条件だ!わかったな!」


 そうして、用意させたモノが運ばれてくる。

 スープは黒く、中に入っている物が見えない。


「そのスープ、黒いってのは、毒じゃないよね?」

「ああ」


「うふふふ、匂いからわかるぞ、私には」

「ふん、わからんように細工をしてある」

「ちっ!」


「でも、持った感触からわかるんじゃなくて?」

「ああ、こので掬ってもらう。では、誰から行く?」


 誰もが牽制をしあっている。


「ふん、じゃあ、リーダーの私から行くぞ!」


 そうして、みんなが各自掬い取った。

 見た目はわからない。

 どれも膨れ方は同じで、黒いスープのために、微妙な色合いもわからないからだ。


「よし、同時に食べるぞ!せーーの!それ!」


「むぐむぐ、美味だ!」

「うめーー!!」

「美味しいですわね!」


「「「えっ?リーダー?」」」


 リーダーは、口からだらり~んと、ねばねばを垂らして、小皿に吐き出していた。


「うぷぷぷぷぷぷ!」

「あははは、リーダー、ご愁傷様!」

「うふふふふ、お、お下品ですわよ、リーダー、おほほほほ!」


 リーダーは、口をティッシュで拭うとお水をごくごく飲み、それからほうじ茶をごくごくと飲んだ。


「あーーー!まあ、そういうことだ。では、解散とする!」


 帰り際に、アイネがリーダーに耳打ちした。

「それで良かったのですか、シノン?」


「ああ、問題ない。名前を言うな!」


「それなら良いのですが、リーダー、お先に向こうで待ってますから」


 外では、空に雲が出て来てはいたが、柔らかい日差しを受けて、桜並木だった街路樹が早くも瑞々しい新緑の黄緑色の葉を煌めかせ、そよ吹く風に枝葉を揺らしながら、彼女達を出迎えていた。


 これからの事を何も知らない魔女達は、それぞれのひと時の平安を楽しもうと足取りも軽く、それぞれの家路につくのだった。



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