第112話 オレは勇者で君達は聖女!

「弥生さん、訊きたいことがあるんだけど」

「どうぞ」

「オレが村雨ってこと、ユミは知らないのか?」

「・・・・さあ?どうだったかしら?」

 弥生さんは、食べるスピードを変えずに返答する。


「いや、どうだったかしらって、あんた、レポート読んだじゃん」

「・・・・さあ?どうだったかしら?」

「ふぅーー、別にいいよ、言いたくないのなら。オレ、もうあの部屋には帰らないから。お金は、借りとくけど、働いて返すから」

「・・・・無理ですね。まず、働けませんよ。契約しましたよね?」

「えっ?契約?知らないけど」


「・・・・ふぅーー、もう少し、賢いと思っていましたわ」

 そう言いながらも、食べ続ける弥生さん。


「説明をイチからするのも時間の無駄なので、一言だけ」

 そう言って、弥生さんは、せっせと口にクリームを運び続ける。


「あなたの将来は、もう、フジグループのものです。なので、どこもあなたを雇ってくれません。例え、それがバイトでもです」

「だから、いつ契約したってんだよ!」

「あの部屋の契約書に、サインを頂きましたよね。あの時についでに頂きました」

「えっ?あれは部屋の契約書だけだっただろ?」

「わたくしは、そんな事は一言も言っていません」


 うん?どうだった?

 オレのチカラで当時の事を再現する。

『これが契約書です。ここにサインを』

『えっと、ここだな』

『はい・・・・もうひとつ、ここに・・・・はい、結構です』

 もうひとつ、アレか?

 あの契約書、二つもサインしたのはそういう事だったのか?

 しかも、一つの契約書のように重ねやがって。


「きたねーよ!それって、契約違反だろ。たしか、契約を結ぶ時には、その内容の説明がちゃんと為されないと無効のハズ」

「わたくしは、ちゃんとお伝えいたしました」

 きたねー、そんなこと、証明できないから、これは単なる押し問答になる。


「ふっ、弥生さん、僕の負けだ。君の鋭い頭脳と美しい美貌には敵わないよ。僕は、たぶん、君の事が好きになってしまったようだ。ユミには内緒だけど」

「えっ?えっ?」

 弥生さん、動揺してるぜ。

 どうよー、これ、この作戦!

 そして、トドメだ!


「弥生さん、明日、また僕とデートしないか?」

「えっ?えっ?カズきゅん!いいのね、こんなお姉さんだけど、いいのね!」

「ああ、僕、おねえさん、大好きだから!」

「くう~~~、いいわ。おねえさんに、いっぱい、甘えてね!」

「うん、僕、いろいろとおねだりするけど、いいかな?」

「ぼく・・いいわよ!ドーンと来なさい!ドーンと!」


「やったー!楽しみだな、明日」

 明日、いろいろと聞かせてもらうからな。



 そして、オレはユミと早乙女の席へと。

 おっと、その前に、オレはその二人の話を、分心したもう一つの心で聞き耳を立てて聞いていた。

 いわゆる、並行思考という感じのものだ。


 そこで聞いた話で、オレは勇者や聖女という話をどうしたら説明できるかってことを弥生さんとのやり取りをしながら考えていた。


『カズトって、あの症状は、中二病っていう、アレかしら?』

『そうね、でも、いいんじゃない。何でも出来るパーフェクトマシーンみたいな人より、そういう、ちょっとおバカな感じの所があるってわかって、彼の事、もっと好きになったわ』


『うん、そうよね、わたし、可愛いって思っちゃったもん』

『香織、カズくんがホントに村雨くんだったらいいのにね』

『うん、そうだね、でもわたし、もう良いんだ。彼が村雨くんなら、確かに嬉しすぎるけど、でもね、わたしは今の彼が好きなんだから。彼の顔とかじゃない、何て言うのかな・・最初は話してて気が合うし、まあ、もちろんイケメンなんだけど、でも面白い事も言ってくるし、その口ぶりとか、身振りとか、話してて飽きないって言うか、彼の笑顔とか、笑顔じゃなくても私を見る目とか・・もう彼が居るだけで私の日常が今までと違っちゃったのよ。最初のデートの時なんかね、うふふふふ』


『あっ、もういいから、それ。でもね、カズくんって、もしかしたら本当に勇者かもしれないよ』

『うん?わたし、それもどうでもいいかなって思うのね。だって、カズトはカズトなんだから。勇者だってことで、私は優しく彼を見守って行くよ』

『うん、そうだね。私が出来る事って、彼を認めてあげることくらいしかできないのかもしれないわね』


 ちがーーーーう!ちがう違う違うぞっ、君達!!

 君達には、使命があるのだよ、聖女という使命がっ!!!


 いや、こう言っても、たぶん、ダメなんだろうな。


 仕方がないか。

 オレは、腹を括って、ユミと早乙女の席へ移動したのだった。


「よう、待たせちゃったな」

「弥生さんのとこへ行きましょ?」

「いや、二人だけに話しておきたいことがあるんだ。それに、まだ聞きたいこともあるし」

「ねえ、デザートが来てるわよ」

 子分とその子分達が後ろに立っていた。

 こいつ等、不意をいつも突きやがる。


 子分達は何も言わずに、ただ笑顔でウィンクをして、弥生さんのと同じジャンボパフェをそれぞれの前に置く。

 全員分のナポリタンは下げられた。


 ちょっとオレの分が残っちゃったけど、それをまだ食べたかったけど、その想いは口から出さずに、オレも目線と顎で、『よし、いいから向こうへ行け』と指示を出した。


「さてと、では話そうか?オレは、やはり勇者なんだよ。たとえ認められてなくても、勇者なんだ。そこ、信じて欲しい」

「「うん、信じる」」


 ちっ!

 軽い返事だ。

 でも、もういい。

 信じていなくても、全部言う事は言っておくんだ。


「そして、君達は、聖女だ。だから、オレと共にずっと居て欲しい!」


「えっ?!それはつまり・・・・」

「それって、そういうこと・・・・」

 

 二人は顔を赤くしたのだった。

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