第109話 告白からの若草餅

「私からも、ごめんなさい!全部、私が悪いの」

 と、ユミも謝る。


「もう、早く仲直りして欲しかったのに、藤堂が香織に何も言わないから。だから、もうこれ以上我慢できなくて・・ええ、もちろん、香織がね。で、今日からは、学校以外では、まあ、人目を避けないといけないんだけど、仲良くやってよね」


「おい、どういうことだ?初めから話せよ!」


「私が言うわね。まず、あの委員長選挙でのこと。カズト・・くんが最初の選挙で委員長に選ばれたの。それも大差でね。そしたら、護道がいちゃもんをつけてきたの。そのことは、知ってるよね、例のネットの記事の事。でも、私はそれでは納得がいかなかったのよ。そしたら休憩になって、紫苑と一緒に護道に連れられて久美子の教室へ行ったのよね。そこで、カズト・・くんの写真とか」


「あのさあ、カズトでいいよ。でも、くん付けもいいかな?」


「じゃあ、カズトで。でね、カズトが女子に変な事をしている写真とか、カズトに中学時代に弄ばれて捨てられたっていう女子が生々しい事を言ってきたの。私、それを鵜呑みにしちゃって。で、その後、みんなにカズトの事を酷く言っちゃったの。ごめんなさい!私、高校生になったら、村雨くんのことをずっと想うのは止めて、前を向こうと思って、それで、カズトを好きになって。でも、久美子が言うように、顔だけで選んで、ちゃんと人を見てなかったんだって、あんなことをされて思ったの。私、自信がなかったんだ、自分の想いに。でも、もうそんな自分じゃないから。私、やっぱりカズトが好きなの」


「ここからは私が言うわね。私が悪かったわ。香織に無理をさせたのは、私なの。あのオリエンテーションが終わって、護道のホテルで打ち上げがあって、その時に、藤堂にメールをしたのよ、香織は。それなのに、藤堂からの返信が、ムネを触らせろとかあるじゃない。私、ピンと来たのよね。これって、香織がムネを触られるのが嫌な事を知ってるヤツの犯行じゃないかってね。後でわかったんだけど、携帯を調べたら、やっぱり藤堂のラインのところが違う所に変更されてた。それは、藤堂の携帯で確認が取れたからね。もう、これも証拠になるわ。なぜこんな事をしたのか。そして、誰がしたのか」


「ああ、これも証拠になるか」


 オレは、あの裏サイトの画像からプリントアウトしたものを見せた。


 それから、香織に買ってあげた指輪も、テーブルの上に置く。


 ずっと、捨てられないで取っておいた。


 ホントは、写真も破って捨てたかったし、指輪もどこかに投げ捨てたかったんだけど。


「あっ!!・・持っててくれたんだ!・・あの時はごめんなさい!」


「だったら教えてくれ。いつから演技をしてたんだ?そういう事なんだろ?」


「ごめんなさい!!」

「ごめんね、藤堂。でも、私には、あの時点では藤堂は、単なる一つのコマにすぎなかったから」


「おまえ、良い性格してるよな!庶民を知るために庶民に混ざったとか?やっぱ、お嬢様はどこまでもお嬢様なんだ。おまえ、何様なんだよ!それに、早乙女も早乙女だ!お前も、オレの気持ちは無視かよ!恋人だったんだぜ!恋人ってのは、相手の・・・・ごめん・・・・早乙女、君には、オレにそんな昔の話をする前に、今の話をまずして欲しい。そうしないと、オレの心には、君の謝罪なんか、一ミリも入って来ないんだよ!」


「えっ?」(早乙女)

「・・・・そうなんだ」(ユミ)


 ユミが意味ありげに、早乙女を見る。

 早乙女は、赤くなった顔を、首筋まで赤くさせて・・・・そして、涙を流した。


「親分、あねさん、お嬢さんに、おねえ様(弥生のこと)!ごめんなすって!この修羅場、あっしに免じて、親分を許していただけやせんか、娘さん方!いえいえ、いいんですよ、親分!親分はどーんと構えておくんなせー!おいっ!持って来い!」


「「「へい、お待ち!」」」


「これは、この前、あねさんから大層お褒め頂いた若草餅10個でげす!それと、今回のスペシャルドリンクは、このグリーン紅茶でげす。このグリーン紅茶は、紅茶独特の香味を残しつつも、抹茶の風味を加え、それぞれを損なうことなく見事なハーモニーを奏でることに成功した逸品でございますでげす。紅茶も抹茶もそれぞれが個性的で強く主張しており、一見すると調和など無理な組み合わせでも、工夫と努力で素晴らしいモノにできるという、良い例でありますでげす。皆様も、それぞれの立場、ご意見がおありでありましょう。ですが、どうか、どうか、ここは親分を愛していなさる者同士のよしみとして、お互いの主張を認め合い、新たな絆を作られてはいかがかと思う所存でありんす!失礼しました!えへん!」


 チラッと、親分の機嫌を、言いきってやり切ったドヤ顔で伺う子分に、オレは怒りの矛先を向けた。


「おい、話がなげーよ。それに、修羅場とか、何か勘違い」

「ありがとう、子分さん達!君達の気持ちは無にしないから、安心して『午後の恋人達のスペシャルパフェ』を四つ、持って来てくれるかな?」


「へい、あねさん!」


 この子分の突然の乱入で、オレ達は一先ず、若草餅を食べ、グリーン紅茶を飲むのだった。


 この紅茶、マズいと思ったが、どうしてこんなに飲みやすいんだ。


「このお餅、とっても美味しいわね。お嬢様がお好きなのもわかるわ」

「うふふふ、弥生、あなた、それで3個目よね」


「おほほほ、お嬢様も3個目ですね」


「ちっ、オレのも食べていいよ」


「ありがとう、でもね、ここはじゃんけんで決めましょ」


「わかったわ」(早乙女)


 早乙女、お前、涙を浮かべながらしっかり食べてるんだな。


 こいつら・・・・怒るのも、うだうだと考えるのもバカらしくなったぜ。

 こいつらは、色気より食い気なんだよな。


 あっ?

 弥生さんもか?

 この人、ホントに、何歳なんだ?

 怖くて、聞けねーけどよ。


 しかし、子分のお陰で、少し、冷静になれた。


 オレは、女子の心がよくわからん。

 オレとこいつ等との仲を邪魔しようと、すでにそういう攻撃があったと言ってたよな、キィのヤツが。


『おい、キィ!コイツ等、ホントに攻撃ってのを受けたのか?それとも、もしかして、オレが攻撃を受けていたのか?あの早乙女がキスしてた映像は、もしかしてだった?』


『それは・・これから直接彼女達の話を聞いてから、考えたらいいんじゃないか?』


『まあ、そうだけどよ。でも、そんなことも、敵はできるのかもって思ってな』


 そんなことを考えながら、オレは早乙女とユミの、あいこでしょってのを眺めていた。


 弥生さんは、負けたのが悔しかったのか、ズズズーと音を立てて、紅茶を飲んでいたのだった。

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