第103話 保健室で

「くせーぞ、もう!」

「仕方がねーよ。でも、雑巾で拭くのも辛かったな!」

「でも、逆に出したモノが広がってない、これ?」

「仕方がねーよ!拭くしかなかったからな」


 藤堂を保健室まで何とか運んだのは、田辺中出身の幸助以下3人だった。


 保健の先生は、護道に付き添ったので、藤堂を保健室へ運ぶように幸助たちに言ったのだった。

 護道は?と言えば、救急車に乗せられて病院へ行った。

 頭から血を垂らして気絶していたおり、もしかしたら頭を痛打したかもしれないと、精密検査を受けるようだ。


 藤堂はベッドに臭い服のまま運ばれてきて、どうしようかとなったが、保健室に居た女子が幸助たちに手早く指示を出して、どこからか取って来た体操服と赤ジャージに着替えさせた。


 藤堂は、その間ずっと、意識を無くしているようで、動かなかった。


 そうして、昼休みが終わり、保健室には藤堂以外誰も居なくなった。


 しかし、間もなくの事、一人の女生徒が現れ、藤堂のベッドの脇に立ち、じっと藤堂を見つめるのだった。


「くさい?・・これがクサイの?バカじゃない、このくらいのクサさで大げさなんだから。私はもっと酷い所で・・・・・」


 そう言うと、藤堂の唇を指でなぞる。


「でも、一応、チェックしとこうかな?私の唇が汚れるのもアレだし」

 その指の匂いを嗅ぐ。


「問題ないわ。うふふふふふ、の環境に慣れるのも困り物ね、うふふふふふ」


 そう言うと、藤堂の唇にキスをした。


「ごめんね、紫苑。私が先に頂いちゃった!うふふふふふ。藤堂一人、いいえ、当本牧村雨。私の見込んだ通りのようね。アレは、勇者の技の一部かしら?うふふふふふ。だとしたら、私の勝ちよ、うふふふふふ」


「ふえっ!!!!」

 突然、藤堂の手が彼女の手首をつかんだ。


「何を・・・・・・」

 掴まれたと同時に、彼女の頭に藤堂の思念が流れて来た。


『待ってろ!!オレがお前をそのいましめから解放してやる!!』


「えっ?・・・・・むっちゃん?・・・・」

 そう言うと、再び彼女は、藤堂を見下ろす。

 その瞳は潤んで、涙をハラハラと落とすのだった。


 やがて、掴んだ藤堂の手は離れ、だらりと垂れさがった。

 彼女は、その手を優しくとると、毛布の上に戻した。

 そして、また藤堂の唇にキスをした。


「・・・ごめんね、むっちゃん・・・」




 しばらくして、藤堂は目をました。


「・・あれ?ここは、どこだ?」


 先程まで居たは、もうここには居なかった。


 藤堂はベッドから起き上がり、カーテンを開く。


「保健室か・・・この格好、また赤ジャージじゃねーか!」

 藤堂は、少し逡巡していたが、自分の部屋へ転移した。


 そして、シャワーを浴びて、藤堂はこれまでの事を考えていた。

(オレ、勝ったよな?でも、スッキリしねー。護道をヤルには、こんな事ではダメだ。もっと、決定的な何かを・・・・)


 藤堂は、腹がとても減ったので、カップ麺を食べる事にした。

 お湯を入れて待つ間、弥生さんとコンタクトを取った。

「はい、そういう事なんで、病院を・・・・はい、ではお願いします。それと、今晩お邪魔します・・・はい、好きです!・・はい、お風呂も・・ええ、一緒で・・はい、楽しみです・・・はい、それではよろしくお願いします」


 藤堂は、着替えの、やはり赤ジャージを着ると、学校へ転移した。


 藤堂は、授業には出なかった。

 だが、最後の授業が終わり放課後になると、藤堂はクラスへ寄り、自分の持ち物を持ち帰ろうとしたら、何も無くなっていた。


(そういうことか・・・このクラスでも、そういうことをするんだ・・別に、どうでもいいけど)


 藤堂は、それ以上考えることを止めた。

 不思議と腹立たしさや悲しさや苦しさは無かった。

 ただ、虚しさ、空虚さを覚えただけだった。


(まだだ。まだ、オレは何も出来ていない。オレがオレである理由、まずはそこからだ!今晩、約束の事を教えてもらうぞ、キィ)


 藤堂には、何かしらの予感があった。

 それは、勇者の為せる予知能力か、それとも勇者であるが故の本能の為せる業なのか、それは知る由も無かったのだが。





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