第102話 決着?

 今度は、護道がピッチャーだ。


 オレは、アイツこそ、ボールに何か小細工をしないか、少しは心配だった。


 護道応援団が、むちゃくちゃ、盛り上がっている。

 さっきまで、シュンとしていたのがウソのような応援で、うるさい。

 みんなが口々に何かを言っている。

 声を聞かない事にしたオレには、もう、何を言われても聞こえないので、感じない。

 だが、勝負の時だけは、このガードも外すので、何を言ってるのかがわかる。


 オレは、自分の心を確めた。

 大丈夫だ。

 もう、PTSDを患った頃とは違う。


 オレには、勇者の底力があるし、精神攻撃にも耐性が・・あるのか?

 いや、底力さえあれば、全てにOKだろ?


 オレはガードを外す。


「藤堂、今度はズルするなよな~!」

「クソ藤堂!ちゃんとやれよ!」

「クズはクズらしく、三振しろや!」

 いきなりの、オレへの悪態が飛ぶ。


「護道く~ん、お願い~、勝って~~!!」

「護道く~ん、お願い~、奪って~~!!」

 護道の顔がニヤリとする。

 気持ち悪い。


 護道応援団の声援はずっとしているから省く。


「藤堂、おまえ、お終いだな、これで!」

「いちいち、区切って話すな!お前の方が、終わりなんだよ!」


 護道はそれ以上言わずに振りかぶった。


 えっ?

 オレは護道の投げようとしている場所が分かった。

 これは?!


 護道は、オレの顔面を目掛けて投げたのだった。

 どういうつもりだ?

 と、あまり考える余裕も無く、来たボールを避けようとした時、ボールが落ちる。


 そうか、顔面を狙ってはいるけど、そこから落として、確実にオレに当てるつもりだ!

 オレは、咄嗟に、バットでファールした。



 ファールしたボールが、あろうことか、ユミへと向かって飛んだ。

 ユミは、動けないでそのままだ!


「あぶないー!」

「きゃーー!!」


 頭を抱えたユミの前に来て、ボールを取ったヤツが居た。


 あれは?


 アイツか!


 あのオーラの大きかったヤツだ。

 素手でボールを取っていた。

 そして、そのボールを手で触りながら、マジマジと見つめ、護道へ返球した。

 ボールは一直線に飛び、護道のミットへ収まった。


「ファーールボーール!!」


「藤堂、あぶねーぞ!」

「藤堂、何てとこに飛ばすんだよ!」

「藤堂、オレ等を殺す気か!」

「藤堂、ひどーい!」

「なんて、酷い事をするの!」

「護道ー、こんなヤツ、早く三振に取れよー!」

「藤堂、なんて、クズなんだよ!」


 護道の子分に誘導されているとはいえ、よく見ろよ、お前等!

 どっちが卑怯なのか、いい加減、わかれよ!

 あのボールが当たったらどうするつもりだったんだろう?

 オレの勝ちになるのか?

 ・・・それはない。

 審判がクソだから、オレが逃げなかったとか言って、ボールって言うのだろうな。


 ユミがアイツに礼を言っている。

 アイツはユミの横に座ると、ユミと何やら話し始めた。


 何を話しているのかが、ちょっと気になったが、護道は、次のボールを投げようとしていた。


 今度は、コイツ、まともに来るのか?

 ストレート、なのか?


 オレは、バットを止めた。

 なぜか、危険回避能力が働き、ストレート軌道の先が見えたのだった。


「ストライーーーク!!」

「ツーストライク!!」


 それは、ストレートの軌道から少し曲がるキレの良いカットボールだった。

 これを迂闊に手を出すと、引っかけたり、ポップフライ(弱い当たりの内野フライか浅い外野フライの事)になって終わりだ。


 少しだけ曲がるって言うのが予測が難しく、集中力を高めても、この球でホームランという訳にはいかなそうだった。


 次はどうするつもりだ?

 三球三振を狙うなら、もうビーンボール(頭部を狙う危険球のこと)の様なモノは投げて来ないだろう。


 ここまで来たら、

 コイツは、三球三振を取りたいに決まってる。

 そういうヤツだ、コイツは。


 だったら、チャンス!


「護道く~ん、がんばって!」

「護道く~ん、決めて!」

「護道く~ん、待ってる~!」


 何を待ってるんだよ!


 護道はニヤリとして、振りかぶった。

 ヤツは、何を?

 集中、集中、集中!!


 フォークボールだと?!

 バカな!

 ボールになるぜ、これは!


 オレは、一瞬で判断した。

 ワンバウンドの軌道が見える。

 このワンバウンドしたボールなら、打てる!


 このバウンドしたボールを掬い上げるように叩くように、ライナー性で後半に伸びるような打球をイメージする。

 ついでに、護道の頭を掠めるような軌道で!


 そう念じて、バットを振り、バットに、そして、バウンドしてくるボールの軌道に、向かってくるボールにも、気を込め、気を飛ばす!


 いけーーーーー!!!

 心の中で叫ぶ!

 オレの今の全力の気を込めて、打つ!!


 ボールは、予定通りの軌道を描きながら、角度良く、ベースの手前で落ち、そして跳ねる。

 バウンドした頂点を狙い、バットでボールを拾うように叩く!


 ボールは、気を入れた予定のコースを辿って、塀を越え、ホームランとなった。

 もう、誰の目にも、オレの勝ちだ。

 審判も認めないわけにはいかないだろう・・ぜ。


 オレは、多分、ずっと勇者の底力で身体を支え、気力を満たしていたのだろう。

 徹夜だし、寝れなかったし、いろいろな悪条件が重なり、最後の気力も、いま全部振り絞ったため、身体がふらついた。


 でも、ぐっと堪えて、ホームランと言うハズの審判の言葉を待つ。


「おい!担架だ!担架を持って来い!」


 顔を上げると、護道が倒れていた。

 頭から血を流しているようだ。


 ああ、ちょっとだけ、頭皮まで削っちゃったかな。

 ぼんやりと、そんな感想を持った時、急に、怒鳴り声が聞こえて来た。


「ひでーーぜ、これは!!」

「護道く~ん、だいじょうぶ~~」

 護道のところへ、護道の子分や護道のファンやシオン達が駆けつけていく。


「藤堂は、エグイな~!」

「藤堂、ホントに殺すつもりか!」

「藤堂、マジ、ひどい!」

「護道君、死んじゃうの?」

「護道君に何てことするの!」

「たかが野球でしょ、ここまですることはないわよ」

「死んじゃったら、どうするのよ!!」

「藤堂、ヤバすぎるぜ!」


 オレを非難する声、声、声。

 オレを睨む目、目、目。


 オレは、今シールドを張れない無防備状態で、他人の悪意をモロに受け・・ゲロってしまった。


 そして、そのまま倒れ、意識を失ったのだった。









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