第101話 ずっどーーーーーん!!
護道の顔面に向かって、投げたボールは一直線に進む。
護道は回避するため、スイングの動作中にもかかわらず、慌てて腰を引く。
握っているバットも放り出す感じで横に突き出し、身体を後ろへと反らせ、またしても地べたに転んだ。
ボールは、顔面直撃コースから急角度に左下に曲がりながら落ちる。
護道から見れば、右斜め下に向かって、方向を劇的に変えたのだ。
もちろん、構えているミットはど真ん中。
どこを通ろうが、ど真ん中のミットに入れば、絶対、ストライクゾーンを通過することになるのは、誰でもがわかるというモノ。
ボールは、キャッチャー佐山のミットへと入った。
護道は、振りに来ていたので、それを止めることよりも避けることに神経を使ったため、手首を返しており、バットは回っていた。
もう、誰が見ても、空振り三振だ!
「ファー―ル!!」
えっ?
あっ?
佐山はボールを零していたのだった。
佐山は、抗議する。
「いや、カスってもいないし、カスった音もしていない!」(佐山)
もう、審判は敵だから、何を言っても取り合わないだろう。
案の定、ミットでしっかり捕っていたらファールだろうがアウトだったんだがって言い返された。
そして、佐山の抗議に、護道は手首が痺れたとばかりに手を振って、バットに当たった様に演技していた。
「ホント、キタネーよな、藤堂は!もしバットに当たらなければ、顔面に直撃してたぞ!」
いや、違うだろ。
「護道く~~ん、大丈夫~~」
「あれって、反則じゃね?」
「そうだ!今のは、フェアじゃねーぞ、藤堂!」
「なんて、汚ねー野郎だ!」
「やっぱ、臭いから、やることがキタねーよな!」
「謝れ、藤堂!」
「そうよ、謝りなさいよ!」
「ひど~~い!」
「しんじられないわ~!」
信じなくて結構。
もう、勝手に言えよ。
「藤堂、冷静にな!」(幸助)
「惜しかったぜ!次に切り替えよう!」(飯野)
という、ありがたい応援は、護道応援団の大声でかき消された。
「くっさい、くっさい、とう~どう!きたねー、きたねー、とう~どう!」
なんとでも言いやがれ!
6球目。
さっきので決めたかったけど、まあ、ビビらせたから良しとしよう。
護道、これで最後だ!
「護道、僕はど真ん中に投げる!打てるものなら打ってみろよ!」
「ウソを言って、俺を騙すつもりか?」
「バカな!みんなが見ているのに、そんな子供じみたウソをつくもんか!」
「まあ、良い。俺はお前を打つ!」
(リミッター解除だ!俺の全力のフルスイングで、絶対に打つ!)
護道は、レフトスタンドを赤バットで指し示す。
コイツは、パフォーマンスだけは一人前だからな!
ギャラリーが騒めく。
「キャーーー!」
いちいち、キャー、言うな!
「待ってました!」
「やっちまえー!」
「赤バットで、ぶち込めー!」
うん?
「護道、頼むぞー!」
「護道く〜ん!」
「神さま〜!」
「女神さま〜!」
「えびすさま〜!」
また、女子達は胸の前に手を組み祈る。
また、一部の男子は、両手を合わせて拝んでいる。
行くぞ、護道!
全力に近い、ファストボール!
もちろん、念を注入。
ど真ん中勝負だ!
オレは、佐山のミットに照準を合わせて、今回は速さだけを念じて投げた。
護道がスイングをする。
このスイング、今まで見た中では最も速い。
しかし、オレのボールも、今まで見せた中で一番速い。
どうだ?!このヤロー!
ずっどーーーん!!
佐山が根性でキャッチする!
護道は、派手に空振りをした!
静かになった中で、審判は、声を張り上げる。
「ストライーーク、バッターアウト!!」
「キャーーーーー!!」
「ウオーーーーー!!」
騒然となった。
「はっや!」
「見えなかったぞ?」
「なんだ?」
「護道〜〜!」
「金返せ〜!」
「破滅だ〜!」
「キャッチャー、ちょっと、ボールを見せてみろ!」(護道)
「うん?いいけど、何?」
「審判、ちょっと、これ、触ってみてくださいよ!」
「・・うん?これは?」
護道は、手袋に付けていたスパイダー(滑り止め、粘着性物質のことでゴッド社の製品名)をボールに付けて、審判に渡したのだった。
「ちょっと、藤堂、来い!」
藤堂は、ボディチェックを受けた。
「お前、汗臭いな・・」
審判のコーチは、適当にチェックを終わらせた。
「この勝負、無効とする!よって、次の勝負で勝敗を決める事とする!」
「うおーー!」
「キャーー!」
「助かったー!」
「護道、なんか知らんが、良くやった!」
「なんか、藤堂がやらかしたらしいぜ!」
「モメてるよ」
「とにかく、勝負は次だな!」
「なぜだ、審判!僕は、勝ったはずだ!バッターアウトって言いましたよね?」
「お前には、不正疑惑がある」
「何を証拠に?」
「このボールを触ってみろ」
「・・・これは・・何です?」
「これは、滑り止めに使う物質で、ボールの引っ掛かりを良くするヤツだ。お前、こんな事までして、勝ちたいのか?」
※注)ボールの引っ掛かりが良いと、ボールが良く回転してキレの良い、ホップする感じのボールになる。
「それは、今、護道が触ってたぞ!」(佐山)
「それなら、お前も触ってるよな、俺よりもっと」(護道)
「僕が、こんなの、付ける訳が無い。何か証拠でもあるんですか?」(藤堂)
「だから、疑惑なんだ。これを付けたのはお前だという証拠は無いが、十分な動機はあるだろう?それより、次の勝負で正々堂々と決着をつけたらいいんじゃないかな?自信がないのか?」
「・・(論点をすり替えてる、コイツがコーチか?クソヤローだ!)自信?バカらしい。いい加減、面倒くなったぜ。護道も、アンタもな!」
「な・・なに!もう一度、暴言を吐いてみろ!お前の負けにするぞ!」
「・・・・・・・」
もう、何も言わない。
こんなの、もうどうでもいい。
こんな勝負、無意味だったよ。
オレは、この勝負の行く末がわかってしまったのだった。
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