第100話 サイコキネシス

「タイム!」

 佐山がオレの所へ走って来た。


「どうやら、真ん中ぐらいしかストライクって言わないみたいだ。どうする?」

「もちろん、ど真ん中勝負で行く。真ん中に構えてくれ。、お前のミットに入れてやるから」

「わかった」


 野球部のみんなは、わかってる?

 ど真ん中しか投げられないようにして?

 野球をやってるんだから、ストライクゾーンとか、普通わかるのに、誰も変に思っていない。

 それを、佐山は確認するために、あそこを要求したのだ。


 あの早苗ちゃんの「打てるよ、ホームラン」で確信した。

 ツーボールになり、ただでさえストライクが欲しい場面に追い込まれたので、余計にストライクを取る為には真ん中辺りに投げざるを得ない。


 それを知っての、打てるよ、なんだ。


 もう真ん中に来るんだから、そこを狙って打つのは難しくない。

 しかも、球種は、ほぼスピードボールしかないだろう。

 変化球のど真ん中なんて、打って下さいってもんだからな。


 誰も、ボールの判定にオカシイと言う素振りすら見せない。

 それこそが、コイツ等がグルって事の証拠だ。


 なんでそこまでして、オレを負かそうとする?


 護道が何かしたとしか考えられない。

 野球部にとって、何か利益になる事を。


 そして、早苗ちゃんとかには、オレの変な写真とか、有らぬ噂をデッチ上げて信じ込ませてるのか、それとも最早、早苗ちゃんは護道のモノになってるか、だ。


 しかし、なんて部だよ!

 サイッテーだな、このクソ野球部!


 そして、3球目。

 オレは、ど真ん中にフォーシームを投げ込む。


 護道は、スイングしてきた。

 護道のスイングは、この前より速い!

 まあ、想定内だ、このクソ野郎ー!


 オレのボールは、念のためホップするように回転を掛けている。

 しかし、それだけではない。


「ストライーク!」

 護道の渾身のスイングは宙を切った。

 空振りだ!

 この審判、ストライクの声だけはデッカイし、ジェスチャーも派手だな(笑)。


「うおっ!!」

「すごい!!」

「うわっ!!」

「ほお~!」

「はっや!」

「あれっ?」


 護道応援団の一人が、あれって言ったよな!

 バカがいるよ、一人。

 前から思ってたけど、オレに水をかけて来たヤツの中でも、頭の悪そうなアイツだろ?

 名前は知らないけど。


 どよめくギャラリーも、再び護道応援団のうるさい声援に押されて、護道コールへと変わる。


 ああ、いつもこれだ。

 これがオレのトラウマになっていたものだ。

 前は、これがトリガーになって、オレを苦しめた。

 しかし、オレはもう、この程度では心にこたえない。


「ツーボール、ワンストライク!」



 4球目。

 また、ど真ん中にフォーシーム!

 護道は、思いっきり、空振りをして尻もちをついた。


「ストライーク!」

「ツーボール、ツーストライク!」


「キャーーーー!!」

「キャーー!護道く~~ん、がんばって~~!!」

 黄色い声援がコダマする。

 久美子やシオンだけではない。

 オレのクラスのヤツも、いや、周りの殆どが護道の応援に回っていた。


「ごっどっおっ!ごっどっおっ!ごっどっおっ!」

 護道応援団もヒートアップする。


「おらーー、護道、気合を入れろや~~!!」

「護道、頼むぞ~~、全てがかかってるんだからな~~」

「護道、信じてるぞ~~」

「護道く~ん、今度こそ、お願い~~」

 

 何かを賭けてるのか、いちいちうるさい。

 そして、女子達がムネの前で手を組んで祈っている?

 あと、一部の男子は手を合わせてる?


 ユミが、こっちを見て笑っているのが見えた。

 そうだ、ユミはオレの味方をしていないフリをしてるのだが、護道の尻もちには、つい、笑ってしまったんだろう。

 アイツは、オレの勝ちを確信しているようだ。

 そうだよ、オレは勇者だ。

 負けるはずがねーよ。


 あっ、またヤツだ。

 アイツ、さっきよりオーラが大きくなってる。

 この大きなオーラ、目立つな。

 こいつは、ただ、オレを見て、観察している?

 あるいは、値踏みしている?

 鋭い眼でオレを見ているよな。


 よし、それなら見てろよ!


 オレの方針は、いたってシンプル。

 バットにボールを当てさせないだけ。

 どのようなバットを使おうとも、当たらなければ関係ない。


 もちろん、ファストボールの速度を上げることは絶対条件。

 だが、それだけでは、もしもって事がある。


 だから、昨夜、徹夜で練習したんだ。


 サイコキネシス、念動力を。

 普通、サイコキネシスは物体を意思のチカラで動かすとかだが、動いている速いボールに念じて操作をするのはムリだ。


 だから、先ずはボールにオレの気(念)を込め、さらに自分が想う気の道を作る。

 気の道っていうのは、ボールが進む予定の軌道に沿って、自分のオーラを飛ばして作る。

 そして、ボールを投げる際に、回転数を上げホップするように指によく掛けるという技術的な事と、ボール=気のかたまりというイメージを持つという観念的な事の両方をやる。


 後は、速度を調節してその軌道に放り込む感じで投げる。

 速度は、気の強弱で調整する。


 これらを練習したのだった。


 5球目。

 さあ、これで終わりにする!


 オレは、、先程のファストボールの速さでボールを投げたのだった。

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