第99話 赤バット
勇者って、何だっけ?
勇者になって、オレはただ護道を倒して、それで何だっけ?
何をする?
何をすれば良い?
もう、じいちゃんもばあちゃんも居無い。
彼等が所属していた組織からも見放されている。
ただ、ユミとあのおじいだけしか、オレの依って立つ所は無い。
オレって、何だろ?
オレは、オレ自身さえも分からなくなってしまった。
それなら、オレがなろうと頑張っている真の勇者っていうのの目的って、何なんだ?
仮に世界平和とかだとして、そんな漠然とした事なんて、どうしてやるんだ?
勇者の心得Ⅰに、勇者の目的とかは無かったぞ!
『それは、勇者の心得Ⅱにある』
『なぜ、目的を先に教えないんだよ!』
『それは、駆け出しにホイホイと教えられるモノでは無いからだ』
『また、秘密かよ!ウンザリなんだよ!』
『・・・・・・・』
『何とか言えよ、キィ!』
『護道を倒せ!見事に倒したら、教えてやらなくもない事もないけど、わかったよ』
『おい、今、誤魔化そうとしただろ?』
『何だ。意外と冷静だな。仕方がない。話を早く進ませる為にも、話せる範囲で話してやる。だが、何度も言うが、護道を見事に倒してからだ』
こうして、言質を取ったからには、護道に完全勝利するしかねーな。
どのみち、絶対にするんだけどな!
オレは、やはり、チラチラと早乙女を見やり、落ち着かなく午前の授業を終えた。
既に、早弁をして、と言ってもパンだけど、もう食べる必要は無いので、直ぐにトイレへ行き、臨戦体勢を整えて部室へ行く。
部室にオレが入ると、シンとなった。
そこに居た数人は、オレを見て見ないフリをする。
オレは、既に来ていた早苗ちゃんに声を掛けた。
「オレのユニホームとか、あるの?」
「・・・あなたは部員では無いので、ユニホームはありません。それに、部員では無いので、部室には入らないでください」
「・・・そうですか。それはごめんなさい」
この子も、変わっちまったな。
オレが出て行くと、直ぐ後に護道が部室へ入って行った。
何か情報が得られるかもと、少し気になったので能力を試してみた。30メートルくらいなら声が聞き取れるだろうと思い、集中力を高める。
「護道君、早く着替えて!藤堂がついさっき来たけど、もう準備オッケーな感じだよ。今日は絶対に勝ってね!あんな人、野球部に入って欲しくないから」
「ああ、早苗ちゃん、もちろんだとも。部の為だけど、ホントは君の為に勝つよ!アイツから、君を守るのは僕だからね」
「うん、ありがとう、嬉しい!」
「もう勝つのは決まってるから、今晩、祝杯をあげる為に、ホテルのレストランを予約してあるんだ。早苗ちゃんも是非来てよ!」
「うん、ありがとう。楽しみ!」
思わず、千里眼も使って、映像でも見てしまった。
護道は、ニヤケて、下卑たオーラを出してる。気持ちが悪い。
早苗ちゃんは、もうピンク色だ。
気持ちが悪い。
見るんじゃなかったな。
まあ、もう野球部なんかどうでもいいや。
お昼休みという事もあって、ギャラリーがとても多く集まっていた。
みんな、ヒマだな。
早乙女の姿は、無い。
つい、探してしまった。
オレには、関係が無いのに。
今日は、曇り空か。
帰る頃には一雨あるかもな。
帰る時、早乙女とあの会長が相合い傘をしている映像がオレの脳裏に浮かぶ。
ちっ!
オレには関係が無い。
シオンも相変わらず、久美子と来ているのか。
帰る時、護道とシオンが相合い傘をしている映像が浮かぶ。
ちっ!
気持ちが悪いな。
この曇り空のように、このギャラリー、オーラが曇ってて気持ちが悪い。
クラスの田辺中のヤツ等、今度は護道の応援か?
ふん、手のひら返しか。
まあ、どうでもいいや。
オレは、こう思うことで、ギャラリーの悪感情を考えない事にした。
もちろん、負のオーラに当てられないように、シールドも張っている。
だが、オレはまだ未熟なので、勝負の時にチカラを出す為には、このシールドまで張っている余裕はない。
しかし、おおよそ予想はついてたけど、アイツら、仲良く付き合ってるんだろ?
それぞれ、田辺中出身で、行きも帰りも一緒だからな。
オレは、元々、蚊帳の外だったんだよな。
なんとなく、わかってたけど。
ふぅー、また心が病んで来たか?
いや、神経が研ぎ澄まされて来たんだ。
何を見ても、いろいろと勘が働く。
オレを応援してくれる者は、もう田辺中野球部出身の、アイツ等だけか。
いや、誰、アレ?
上級生か?
強いオーラを感じる。
オレをジッと見てるよな。
まあ、大概のヤツはオレを見てるから、無視だ。
前回の対戦と投打の順番が入れ替わった。
オレが、まずはピッチャー。
審判は、野球部のコーチが行う。
2、3球、投げる。
直ぐに、プレイが掛かる。
早すぎないか?
と思ったが、まあ、いい。
こっちも早く終わりたいからな。
「藤堂、直ぐに終わらせてやるよ!」
「お前、どうでもいいけど、その赤バット、何とかならんのか?普通のバットを使えよ!」
「コーチ、構いませんよね?」
「ああ、問題ない。それでは、行くぞ!プレイ!」
一球目。
内角低めギリギリを狙った。
前回と同じだ。
だが、今回は、あの時よりも速い。
多分、150キロオーバーのはず。
「ボール!」
「えっ?」
佐山もオレも、疑問符だ。
この審判、もしかして?
ギャラリーが騒つく。
「今の速かったよな?」
「なんだ、護道、手が出ないのか?」
そうだよ、際どいけど、アレはストライクだ。
「「護道く〜ん、頑張って〜」」
久美子とシオンが声を合わせて声援を送る。
それを契機に、護道応援団が急に活気づく。
「ごっどっおっ!ごっどっおっ!ごっどっおっ!」
うるせーよ。
『・・・・・・』(キィ)
二球目。
佐山は、賢い。
お前のリードを信用するからな。
今度は、外角低めギリギリよりも、左右的にストライクゾーンの端からボール2個分、上下的には3個分中に入れる。
もちろん、150キロオーバーのボールだ。
「ボール!」
佐山が抗議する。
当然、判定は覆らない。
外野がうるさい。
「藤堂、ストライク入れろよ」
「フォアボールは、見たくねーぞ!」
「藤堂、ノーコン、ノーコン!」
「なんだ、オイ、藤堂!ビビってんじゃねーぞ!」
「護道く〜ん、打てるよ〜、ホームラン!」
早苗ちゃんか?
彼女、あんな事、言う子だったか?
なんで打てるんだよ!
って、えっ、つまり、みんなグルなのか?
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