第90話 おじい様との対決①
僕は、新しい濃紺の背広に身を包み、スカイブルーのネクタイをしていた。
なんでも、爽やかさと若さをウリにした装いとか、らしい。
いや、ネクタイだけ目立つんだけど。
僕は、髪を七三に分けられた。
耳上、サイドは刈り上げてすっきりとさせ、サイドの髪は後ろへ流してボリュームを抑えた形にして、より清潔感を前面に出す、ということらしい。
また、七三分けでおでこを出すことで、秀でた前頭葉を見せつけて、優秀さとイケメン顔をよくアピールするのが狙いらしい。
僕は、七三なんて初めてだから。
全部、ユミさん専属の女性美容師の人がノリノリでやったことだから。
ユミは、肩を出し、どちらかと言うと「大人しめのムネ」の、上くらいまで露わにした、白を基調としたドレスを着て、ハーフアップした髪の毛は白い花びらの付いたヘアコームで
いや、間違った。
大人しめのムネでは無かった。
それなりの大きさ、シオンクラスの大きさだった。
もしかして、隠れ巨乳というヤツか?
あの田辺中野球部出身の、ヲタクの佐山が好きなタイプのムネらしい?
知らねーよ、っていうか、僕のモノ覚えの良さに呆れた。
ムネについては、シオンは巨乳なのだ。
少し話したと思うが、あの小学生の頃から急成長したムネは、今ではたわわに実り・・・あの護道のモノになっているのだろう。
でも、ユミも、実はそのくらいはあるかのような・・・あれっ?さっきブラの彼女を見たけど、気がつかなかったな・・・うん?どういうことだ?
しかし、彼女のムネをジッと見る訳にも行かず、そこまでの事を一瞬見た彼女の姿から類推しただけなので、推論の上に推論を重ねるという悪手は避けたい。
「カズくん、何を黙り込んじゃってるの?おじい様とは、しゃべくりで勝負しないとダメなのよ」
もう、僕のことはカズくんで通すようだ。
「えっ?勝負って、どういうこと?」
「カズくんは何もわかっちゃいないのね。おじい様に、まずは、カズくんが勇者だという事を認めさせなければいけないのよ。それからなの、それから私たちの偉大な一歩が始まるのよ!」
「そうです、カズくん!お嬢様の仰る通りです!」
「なんで、弥生さんまで、カズくんって言うんですか?」
「ダメよ、私を誘惑するような事を言ってわ。困ります、わたし。カズトさんとか、カズきゅんとか、そんな恋人同士の関係、お嬢様に悪いですし。でも、嫌じゃないですよ」
「弥生にそんなことを!カズくん、いったいあなたは、私という許嫁が居るというのに!」
許嫁・・えっ?
そうなの?
おじい様に、僕、彼女をくださいって言うのか、これから!
僕が勇者だってことを名刺代わりに使うってこと?
「あら、お嬢様、ごめんなさい。私の方が魅力的で、申し訳ございませんですぅ、うふ」
「カズくん、もう一度言って!はっきりと言って!私のことをどう思ってるの?」
「えっ?なんだよ、突然すぎるぞ!えっ?なんでこうなったんだ?」
「ねぇ~、早く言って♡」
そのおねだりする様子と声に、僕は負けた。
「・・僕は、ユミさんが好きだ!お金持ちのお嬢様とか、少し上から目線とか、弥生さんと怪しい関係とか、そんなの関係ない!僕は、純真な君の心に惹かれたんだ。そして、君の揺るぎない綺麗な心にも。そして、なにより、クラスの者達のバカな騒動にも動じずに、こんな心の弱い僕の事を好きだと言ってくれる君が大好きだ!」
「・・・・//////////////////(顔を赤らめるユミ)」
「・・・・流石は、お嬢様が御認めになられました殿方です。この美人秘書弥生、感服いたしました!是非、わたくしめも、おそばにお仕えしたく思います!そして、各種お世話をいたしたく存じます」
メイドじゃなく、秘書だったのか?
じゃなくて、えっ?
弥生さん、僕の秘書もするの?
いや、なんか、各種って何?
「えっと、えっ?」
「カズくん、あなたの気持ちをしっかりと確めたかったの。ごめんなさい、また芝居がかったことをして。でもね、おじい様に対した時、私達の武器は、この愛の絆だけなの。そこがしっかりしてないと、おじい様には勝てません」
「そうです、カズきゅん。是非、お勝ち下さい!私も応援してますので!」
もう、面倒なので、弥生さんにはツッコまない事にした。
しかし、それがいけなかった。
ユミさんのドレスは、乙女をウリにした装いとかで、おじい様好みらしい。
そのおじい様の好みに合わせて着飾るとか、僕が会おうとしているおじい様にはヨイショをしなければいけない相手なのだろうか?
いや、僕は勇者だ。
誰にも物怖じなどしないぞ、そう決意していた。
ただ、スカイブルーのネクタイがどう見られるのかが気になるけど。
そして、直ぐにその時はやってきた。
「おじい様~~~!!お久しぶりです~~~!!」
そう言って、ユミさんはおじい様に抱きついた。
「おおお~~、また一段と、美人になって!ワシに似ておるな~~~、わははははは!」
「おじい様、ご紹介しますね。こちらが私の恋人のカズきゅんです!」
えっ?
おいおい、なんでここでカズきゅんなんて!
バキッ!!
えっ?なんか音したよ。
不穏な音がしたよ。
弥生さんがササっと、おじい様のそばに移動して、何やらやってる。
「君が・・カズきゅんか!!」(おじい)
「えっ?」
「どうなんだ?」
ギロッと睨まれた!
まるで、鬼のような形相だ!
ヤバい人だよ、この人!
何がワシに似ておるって?
ユミ、お前、コイツに似てなくて良かったぞ!
何だ、これ?
もしここで、そうで~~す、僕がカズきゅんだよ~なんて言ったら、終わるよな。
かと言って、わざわざ、カズきゅんか?って聞かれて、違いますと言って訂正したら、孫娘の言う事はウソだと言うのかって、怒鳴られそうだし。
いきなり、僕は乗り越えなければならない試練に直面したのだった!
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