第64話 どぶにどぶん!

 オレは、彼等の声を拾う。


『やんなっちゃうなー、あんた達、来なくていいのに』

『いいだろ。オレ等はここで弁当を食べるんだから、早く食べてーな、紫苑の手作り弁当』

『えっ、そんなに期待されたら困る。護道くんがいつも食べてるのより、絶対まずいから!』

『いいんだよ。愛するひとが作ったモノなんだから、美味いに決まってるだろ!』


『やだー、そんな事言って、幻滅するよ、絶対』

『あーあ、これだから、あんた等と来たくなかったんだ。早く、、来ないかな?こんな事やあんな事も、全部藤堂のせいなんだから!アイツに怒りをぶつけて、早くお弁当、食べたい!』



 こんな話を聞いてすぐに行けるほど、オレのメンタルは、もちろん強くない。


 オレは、わかってしまったんだ。

 お前たちと話す前に、もう何がこれからあるのかわかってしまった。


 どうする?


 引き返すか?


 でも、何でだよ!


 なんでこんな事になるんだよ!


 オレは、やはり、一人なのかよ?


 オレは、幸せな高校生活を送れないのか、送ったらいけないのか?


 オレは、右拳を握りしめていた。




 オレは、何の為にこの学校に来た?


 姿を変えて、何の為に来た?


 オレは、これからは、例え困難な事が起ころうとも、例え心が折れそうな事が起ころうとも、絶対逃げないって誓ったんじゃねーのか!


 そして、その先にある幸せを掴むって誓ったんじゃねーのか!


 幸せ・・・・あるのか、それ?


 いや、あるに決まってる。

 そうでないと、オレは、たぶん死ぬ。

 身体が生きてても、心が死ぬ。



 愛する者ができた、心が通じる者ができた?


 はあ?

 オレは、寝ぼけてたな!

 そんなに簡単にできるわけねーんだよな、やっぱ!


 そうだよ、簡単じゃねーよ、だからチカラが要る。

 オレは、もっと強くなる!


 だからだ!

 いまここから逃げたら、この先、オレは、たぶん・・ダメになる!


 早乙女、紫苑、護道!

 お前らの本性を、見せてもらうぞ!


 オレは、もう逃げない!

 護道、オレは、もうお前の好きなようにはならない!


 お前らの心を、覗かせてもらうぞ!



 オレは、持っていた弁当を隠すと、奴等の前に出た。


「おう、待たせたな」


「遅い!何様のつもり、その態度!」


、言いたいことがあるんだよね。怒ってないで早く言ってくれるか?」


「何よ、ホント、エラそーな事言って!じゃあ言うわね、アナタと私は、もう何にもお互い関係の無い者同士だからね!そして、忘れなさいよね、私と、その、一緒に・・映画行った事とか!・・これ、返すわよ!」

 オレが彼女に買ってあげた指輪を、早乙女は放り投げて来た。

 もちろん、上手くキャッチする。

 しかし、放り投げるって、コイツにとっては、もう、そういう事なんだろうな。



「ふん、もうこれで、アナタと一切関係無いから。もう近寄らないでよね!」


「なぜだって、訊いて良いか?」


「これ!」


 オレは、出された紙切れを見た。

 それには、オレが自己紹介した時に話した内容のモノが書かれていた。


「何だ、これは?」

 護道も、紫苑も、オレを見ている。

 護道はニタニタと笑っていて、イヤなオーラが出まくっている。

 そのオーラが紫苑にも移り、紫苑の顔もニタリ顔に見えて、気持ち悪い。


「ホントに、演技が上手いわね」

「コイツは、マシーンだから、感情が表情に出ないからな」

 喋るな、護道!!

 お前の口から、ツバのように気持ちの悪いオーラが出てきて、早乙女にもかかる。

 気持ち悪い。

 それが為かどうか、早乙女はヒートアップする。


「もうね、言い逃れとか、出来ないからね。これがアンタの不正の証拠よ。この文章はね、2年前にラグビーのワールドカップがあった頃に書かれた文章なの!日付が見えるでしょ?この日付は、この文章が公開された日付で、これを変更することはできないのよ!ウェブであなたはこれを見て暗記したってことなんでしょうけど、みんなが感動して拍手したわよね。その罪は大きいわけ。だって、その結果ね・・・まあいいわ。それからね、中学時代、テスト中に時々トイレに行くって話も聞いたわ。この前のテストの時もあなた、トイレに行ったわね。しかも1番難しい数学の時に。もうみんな知ってるのよ、あなたの不正をね!担任の先生も知ってるわ」


「ちょっと、待ってくれ。一体、なんだよ、これは?それに、トイレって?」


「呆れた!あなたってあくまでもシラを切る気なの?」

 早乙女のオーラが綺麗な炎の様に燃え上がって見えたが、それも一瞬。

 早乙女のオーラの色は、護道から発する嫌な感じのオーラに毒されたように赤黒くなった。


「そうだ!お前、トイレに入って、スマホとかでカンニングしてたんだろ?たしかにお前の記憶力はすごいとは認めるよ。でもな、テスト中にカンニングとか、自己紹介でもその記憶力を使って、他人の書いたものをそのまんま喋るなんて、どういう神経をしてんだよ?あっ、そうか、お前中学の時からやってることだから、高校でも通用すると思ってるんじゃねーだろうな。生憎だったな、オレがお前の不正を暴いてやったぜ!でも、安心しろ、不正を認めて反省するなら大目に見てやるし、担任にも取りなしてやるから」


 クソみたいにクソ喋りやがって!

 また、コイツは口から、今度は多量に黒い、汚い、ドブの臭いのするオーラをまき散らしてやがる!

 もう、この辺り一面にたち込めてきて、早乙女も紫苑も魔女の様になってるぜ、魔女とか知らねーけどよ。

 つまりは、全部ウソ!

 汚く、臭い、お前の汚臭にまみれた考えとか企みとか、そんな醜く汚い心から来る言葉の数々。


 だいたい、お前は何様のつもりだ?

 こういう発言をしているのを聞いて、護道はとにかく、魔女たちはおかしいとか思わねーのか?

 コイツ等の方が正常じゃないんじゃねーのか?

 何が、大目に見てやるだ!

 イチ生徒のクセして、エラそうに咆えてるんじゃねーぞ。

 そんな言い分を認めてるこの魔女たちもどうかしてるぜ。






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