第63話

 朝、少し寝坊をした。

 ヤバい!


 案の定、じいちゃんはオレにお説教を垂れる。


 以後、時間厳守の厳命が降ることになった。

 時間厳守は、人と人とのコミュニケーションの基本的ルールだ。


 オレは、デートの事を思い出していた。

 デートは、30分前か。

 だったら、そこが基本かもしれないな。


 以後、オレは、30分前を基本とする事にした。


 だからこの日、オレは、30分前に教室にやって来た。


 それまでに、ラインをチェックしてたが、オレのメッセージに既読がついていなかった。


 もちろん、紫苑と早乙女とのラインだ。


 教室に入ると、一斉にオレを見た。

「おはよう」

 そう言ったのだが、誰も返事を返してくれなかった。

 というより、オレから顔を背ける感じだ。

 ちょっと声が小さかったのかなと思ったが、彼等の発する感情は、そんな感じではない。


 田辺中のヤツは、全員、オレより後の電車みたいだ。


 オレは、自分の机の中に紙が入っているのを見つけた。


『藤堂の正体、とうどう見つけたぜ!』


 そう書かれていた。

 誰が書いた?

 この字?

 見たことがある。


 そうだ、これは!


 オレは、それを丸めるとゴミ箱に捨てた。


 オレは、つい、ゴミ箱を見つめてしまった。


 イヤな感じだ。

 あの時と同じ感覚!


 あの字で思い出した。

 イジメにあった時、机の上に落書きがしてあったのを。


 へんたい へんたい どうどう へんたい

 たいへん だいべん もらすな へんたい


 あの時のうの字と同じ字体だ。

 うの上の点の仕方が特徴的なのである。


 そしてわかった。

 護道の子分の声援で、護道どうどうって言ってたな。


 同じだ。

 笑いを取る時、つい同じフレーズが出る事が多くある。

 ダジャレの場合も同じだ。

 こいつは、なぜかどうどうというのが好きみたいだが、たぶんこの時のは堂々と変態って意味なんだろう。

 それにお馬さん、どうどう、なんてニュアンスを引っ掛けてる?


 そいつも小学生だし、オレもそうだからレベルが低いのもあったが、既に煽るような調子を取っているのは、良く出来ている。


 いや、感心するなよな!



 オレは、またイジメに会った時の感覚が蘇る。


 それに、このクラスの者達の、オレへの感情の波がオレの心に障る。


 腹が痛くなってきた。


 オレは、腹を押さえながら、これで決まりだなと思った。

 やはり、護道か、護道の子分がオレをイジメた張本人なんだ。

 そして、今もこんな事をしている。

 アイツ等は、今も変わってない。

 だったら、とことんやってもいいよな?


 しかし、なぜ、みんなから、そんな感情を向けられる?

 一体何が起こっているんだ?

 やはり、オレの自己紹介で小学生時代に変態って言われてたのがバレたのか?

 しかし、そんなことで、またオレを無視とか、イジメるとか?そんなクラスメイト達なのか、コイツ等は?

 もしそうなら、そんなクラスの友達なんか要らない。


 でも、まずは、そこを知りたい。


 オレは、教室から随分と離れたトイレへ行く。

 ここのトイレは綺麗で、あまり人が利用しないので、オレはここを見つけた時は小躍りしたものだ。


 そこで、オレは落ち着こうと、気持ちをなだめながら大をした。


 ああ、ヤバいな。

 今日は一日、トイレとの往復を覚悟した。


 オレは、今能力が上がってきている。

 それにつれて、オレは、他人の感情の波、つまりオーラというか、そういうモノの影響を受け易くなっている。


 そんな事を経て、そういった他人が発するモノに慣れ、それを客観的に受け止めて行き、それを操ったり、捉えたり出来るようになるらしい。


 まだオレは、修行中だからな。


 まずは、精神を集中する。

 呼吸を整え、落ち着かない神経を宥め、丹田に意識を向ける。

 腹の胃腸の部分に大丈夫と声を掛けて、丹田に集中させた意識を広げ、腹全体に穏やかなイメージの波動、まずは暖かい感じの波動を送る。


 波動の種類は、オレのイメージのチカラだ。


 そうして、身体全体にその波動を広げていく。


 身体が温くなる。

 チカラが満たされる。


 その波動、つまりはオーラみたいなモノから自分を守るための盾のようなモノを、バリアのようなモノを。


 オレへと向けてくるクラスのヤツ等の感情の波動から、オレの心を守る波動の壁を、囲いを作る。


 身体全体にいきなりは作れない。

 オレの頭部と胸部くらいを覆うヤツを。


 オーラの鎧・・・そんなイメージで・・・。


 これをシールドと呼ぶのは、後から知ったが、オレは自分のオーラでそれが出来ないかを試行錯誤し、結局、始業ギリギリで教室に戻った。


 オレは、近くの早乙女におはようと声をかけたら、後で話があると言って、ソッポを向かれた。


 早乙女は、隣りの女子と何やらオレを時々見ながら話しているようだが、オレは、クラスの者達からのイヤな感じのオーラをシールドで防ぐ事に集中する。


 朝のショートホームルームが終わると早乙女が壇上に上がって、何やら話を始めた。


 球技大会があるらしく、生徒会からの通知と大会の要項を簡単に説明し、掲示板に貼るらしい。


 そして、クラスの代表を男子はソフトボール、女子はバレーボールに出すので、まずは参加したい者は、掲示板に併せて貼った紙に書けとの事だった。


 早乙女は、クラス委員長になったのか。

 また、ご苦労様だな、とオレは思った。


 すぐに次の授業とか移動教室とかで、まだ早乙女とは話してない。

 いや、オレは、誰からも話し掛けられずにいた。


 オレから話すという事は出来なかった。

 なぜなら、みんなからオレを避けるか無視しようとする感じが伝わるからだ。


 何だ?

 これは何だ?


 早乙女は、もう話しかけては来ずに、オレを無視している。

 紫苑は、護道といつも一緒で、オレの方を見ようとはしない。


 早乙女は、オレに対して怒っている?

 紫苑はオレを・・・・わからない。

 彼女の心の感情は、相変わらずオレにはわからなかった。


 そう言えば、じいちゃんはとても好きな女の心を読むのは、命懸けだと言ってたけど、それって、どういう意味なんだろう。


 とにかく、紫苑の心は読めなかった。


 そして、昼休みになった。


 授業中に早乙女から回ってきた紙に、昼休みにすぐに屋上へ!って書いてあった。


 だからオレは、トイレに行って気持ちを落ち着かせてから、弁当を持って屋上へ行った。


 屋上では、カップル達が弁当を食べたりしてるので、カップルでない者達は屋上へ行くのを遠慮するのだが、オレはまだ早乙女と恋人だと思っていた。


 だから、オレは、早乙女と食べながら話しをするのだと思い、弁当を持ってきたのだった。


 屋上の扉を開けると、向こうに早乙女と紫苑と護道が居て、何かを喋っている。


 なぜ、アイツ等も居るんだ?


 オレは、アイツ等を見た瞬間に、イヤな予感がした。


 だから、すぐにアイツ等の死角に隠れたのだった。





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