第62話 当本牧家

 静かな夕食を食べた後、オレはじいちゃんの話を聞く。


 当本牧とうほんもくという家柄は、ダテではなかった。

 戦国時代にまで遡り、異世界から来た勇者の末裔だという。

 じいちゃんがそうであり、元勇者だ。


 実際、唐変木というのは、当本牧から来たとも言われている。

 何か得体の知れない者の名前が当本牧であったことから、何か変な技を使う、唐から来た者(木=もく)達だと言われたことがその起こりとか。


 そして、ばあちゃんは勇者の元に召喚された聖女の末裔らしい。


 しかし、その素質を受け継ぐ者が何世代に一人出るかどうからしく、そういう意味でもじいちゃんとばあちゃんは珍しいらしい。


 勇者あるところ聖女ありで、必ずカップリングするとのことだ。


 では、もしオレが勇者の血を受け継ぐ者なら、聖女は今まさにどこかに居るのだろうと思った。


 じいちゃんの話は続く。


 そういうことなら、その勇者の家系の男と聖女の家系の女を結婚させたら、勇者が生まれる可能性が高くなるのではないかと、昔から強引に結婚させられたらしい。


 たしかに、そうして勇者が生まれる確率は高まったらしいが、その素質としての能力の性能は、当本牧家の男子と他所の女子とが結婚して産まれた子の方が高いらしい。


 そして、オレは、当本牧家本家の末っ子と、一端聖女の家系の養女になった女性との間に産まれたそうだ。


 ぶっちゃけた話、その末っ子である父さんがナンパした女性が母さんだったらしい。

 二人とも、男女関係は、それなりにあり、どういう訳か一緒になって、どういう訳か母さんが妊娠したとのことだ。


 そして、急遽、結婚したらしい。

 いわゆる、できちゃった婚だった。


 父さんは、母さんの言うように、いろんな女性と付き合っていたらしいので、確かに他にも子供がいるらしかった。


 そのことは、それ以上は知らないという事だった。


 まあ、関わりにならないって事になったから、もう関係ないしね。


「ばあちゃん、ばあちゃんの場合はどうなの?」


「私は養女ね、でもね、私は聖女としてのチカラを認められて養女になったの。だから、アナタのお母さんとは違うわね」

 なんだよ、ホントの末裔じゃねーじゃん。


「どうやって、聖女とわかったの?」


「うふふふふ、それはね、うふふふふふ」


「話はここまでだ。聖女ってわかるのは、己が勇者なら自然とわかるもんなんだよ。そして、お前は、勇者のタマゴだ。だから、本当の勇者になった時、聖女達は自ずとわかって来るんだよ」


「いま、聖女達って言ったよね?つまり、複数居るって事、聖女は?」


「・・・・・バカ」(ばあちゃん)


「・・・・・・それはな、だから、勇者になればわかることだ!」


 オレは、それ以上は聞けなかった。

 ばあちゃんが怖かったから。


 じいちゃん、あんた、何か仕出かした?


 勇者や聖女が何をやってるのかは教えてもらえなかった。

 オレはまだ、勇者じゃないかららしい?

 そうか、じいちゃんはもう勇者を引退していると言ってたから、今は勇者は居ない。

 だったら、聖女もいないのか?


 勇者達は、世界の安寧と人々の役に立つ事をしているに違いなかった。

 元勇者のじいちゃんは時々誰かと英語で喋ったり、英語の新聞や雑誌を読んだりしてるし、家には海外からの小包なども届いたりするから、世界を股にかけてる事は想像に難くない。



 それからオレは、修行をした。


 明日は、更なる修行をするという事で、朝が早いようだ。

 だから、すぐに布団に入る。


 アイツ等、携帯を取り上げられてるから、繋がらねーよな。


 そんなことを想いながら寝た。


 外は、アラシだった。

 遅い春の嵐が吹き荒れていた。


 風の唸る音と、激しく降る雨の窓や建物を叩く音がする。


 季節は、もう新緑の頃を迎えていた。


 翌日は、晴天に恵まれたので、朝日を見て、その陽光を体内に取り入れ、その暖かさを感じ取る修行から始まった。


 そして、ジョギングをする。


 前日の嵐で葉や小枝が道路の脇や歩道の上に散らばっていた。


 朝露なのか、昨夜の雨の雫なのか、朝日に反射して、キラキラと光り、瑞々しい黄緑色の柔らかそうな葉の緑が目に映え、気持ちよくランニングが出来た。


 そして、家に帰ってからの味噌汁が、今日は格別に旨い。


 ご飯をしっかり食べ、洗い物を手伝う。


 自家菜園のお野菜の手入れをして、それからじいちゃんやばあちゃんの肩を揉み、オレの修行が始まる。


 午後からは、図書館から借りている本を返し、また10冊借りてきて、それを読んだり、勉強をしたりする。


 いずれも時間を計ってするのだが、今回はその合間を縫って、興味本意で買ったラノベ、異世界モノばかりを読んだ。


 異世界へ行ったことのある勇者が気になったのと、あの映画の勇者たちの世界に少しでも触れたかったのとだ。


「君の名前は?」の本は買っていない。


 じいちゃんに見つかると厄介だから。

 じいちゃんは映画を見るなと言ったが、オレは見ることに決めていた。


 できれば、紫苑と早乙女とで見たい。

 そう願っていた。


 明日も、朝日からの修行だから、この日も早く寝ないといけなかった。


 しかし、もういいかなと、ライン電話をしたが応答が無かった。

 なので、ラインに文字を入れておいた。


『紫苑、おつかれ!楽しかった?オレは両親に会って、みんな元気だったし、良かったよ。もし、また「君の名前は?」を観に行くんだったら、一緒に行こうぜ。楽しみにしてるよ。もちろん、奢ってやるから。』


 早乙女にもライン電話を初めてしたが、繋がらなかった。

 やはりまだ帰ってないのか、風呂にでも入ってるのか、まあ、明日会えるから良いかと思って、紫苑と同じような文面を入れておいた。


 そうして、明日、会えることを楽しみに寝た。


 夢を見た。


 夢では、紫苑は泣いていたので、オレは彼女を抱きしめていた。

 彼女は、何かを言っていた。


 彼女の身体の柔らかさと温もりを感じ、オレは幸せだったけど、何を言ってるのか、なぜ泣いてるのかわからなかった。

 それで、オレはもらい泣きをした。

 夢の中だから、泣いてもいい、そう思って泣いた。


 そんな夢だったが、起きた時には、もちろん、忘れていたのだった。








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